[おーい]

これは自分が厨房の時の体験談の1つ

厨房の頃、古い社宅に住んでいた
家族は、オレと母と姉。父とは別居していた。別居というか複雑な関係。週に一度くらいは社宅に来る。
ある日、いつもと変わりのない週末の夜…。オレは自分の部屋で、寝っころがって漫画を読んでいた。
自分の部屋といっても、姉と共用。
姉はそのとき風呂に入ってた。
母は襖越しの隣の部屋でテレビを見てたんだと思う。

そんな時、不意に
『おーい…』
…誰かに呼ばれた気がして、オレは身を起こした。
「…気のせい?…テレビか?」
と軽く思い、また寝っころがろうとした時
『おーい』
今度はハッキリ聞こえた。親父が来たのかと思った。玄関から呼んでるのかと思った。
でも、親父の声とは違う様な気がした。妙に曇った声。

オレは固まったまま、様子をうかがってみた。
ボロ社宅なので玄関に誰か来れば、物音が聞こえるハズ…。
しかし何も聞こえてこない。聞こえるのは隣の部屋のテレビの音。
不信に思ったオレは玄関を確認しようと思い、襖に手をかけた。そのとき

『おーい』
…!また聞こえた。オレの後ろから。
振り返ってみるが誰もいない。
目の先にはカーテンの閉まった窓があるだけ。
(外から呼んでる…?)
ちなみにここは2階。外から大声で叫べば、窓が閉まっていても聞こえない事はない。
窓に近づく。色々な解釈が頭を巡る。
(友達?こんな遅くに?)
(やっぱり親父か?玄関の鍵閉まってたか?)
窓まで約1メートルくらい。ここまでは恐怖とかの感情はなかった。日常的な軽い疑問程度。

『おーい』

オレは固まった。
聞こえる。窓のすぐ外から。曇った声。そう、まるでガラスに口を押しつけているかのような曇った声。
若干チビる。

ここから恐怖にかわった。
ゆっくりと窓からはなれるオレ。というかゆっくりとしか動けない。ホントはダッシュで母のいる部屋に飛び込みたかった。

『おーい』

勘弁してくれ
声の振動でガラスが震えてるのがわかった。
カーテン越しの窓の方を凝視しながら、隣の部屋への襖に後ろ手を掛け、ゆっくりと開ける。
泣きそうになりながら母に助けを求めようとした………が、母の姿がない。テレビからはバラエティー番組の笑い声が聞こえる。

猛ダッシュで台所へ。そして塩を鷲掴み。塩を撒き散らしながら窓の部屋へ。そしてそのままの勢いでカーテンめがけて塩の塊を投げつけた。
その頃の精一杯の除霊方法。

…しばしの沈黙。固まるオレ。
(あれ?やっつけた!?すげーなオレ)
とか一瞬得意気になった。
何はともあれ確認しなければ部屋にいられたものじゃない。
修学旅行で買った木刀片手に、カーテンに近づき一気に開ける!
バッ!!と何かが横に隠れた。オレは声にならない叫びをあげたと思う
(………頭!?)
隠れたのは頭っぽいもの。思い返せば頭で間違いない。顔はよく分からないが、目や鼻や口のようなものは一瞬見えた。
ここで2度目のチビり。もはやチビるというレベルは超えていたかもしれない。

続く