[うごめく髪の毛]
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しばらく沈黙が続いて、姉さん身動きとれなかった。たまらず視線そらして、気付くと
上にいるモノはいなくなってた。
「あー、ビックリシタ・・・」

ちょっと安心して、ふとドアの窓を見たんだって。
地下鉄って、外が暗くて中が明るいから、窓には中の様子が映るじゃん?
「あれ、なんかおかしいぞ」って思って、窓についてる自分の手をどけたんだって。
自分が手をどければ、窓に写る像も動くはずじゃん?でもまだ手が窓に張り付いてる。
誰かの手が、外から張り付いてた。
ちょうど窓越しに自分の手と、誰かのが合わさってた感じ。はじめ、その手の持ち主は
窓枠の外で見えなかったんだけど、ゆっくり窓枠の下から黒いモノが這い上がってくる。
相手の顔が見えた。女の顔。

「うわ・・・勘弁してよ〜。」
身動きとれないし、ドアの窓との距離5、6センチ。顔合わせるの嫌だから、なんとか体くねらせて
ちょっとずつ移動する。それにあわせて、相手もゆっくり移動する。
もう視界は、その女の顔しか写らない。顔はちょいと美人なんだけど、近いしニヤニヤしてるし、
涙でそうになったんだって。

次の駅に電車が止まると、姉さん側のドアがあいて、女は消えた。降りる人のためにいったんホームに
降りて、また乗ったんだけど、運悪くまた窓の前。
電車が走り出すと、また女が窓に張り付いてる。もう姉さん、一人で泣いてたんだって。
女がニヤニヤしながら話し掛けてきた。電車の外だから、聞こえるはず無いんだけど。

「なんだぁ、あなたも私とおんなじなんだぁ。振られたんでしょ?ね、でしょ?
あなたの彼氏もヒドイ男ね〜・・・つらかったでしょ〜。
ねぇ、聞いてよ、私の彼氏もヒドい男でさぁ。あいつったら・・・」

一方的にベラベラ話し掛けてくる。目つぶっても、声は聞こえてくるわけで、
「私はもうダメだけどさ、あんたならいい男みつかるわよ。」
って、挙句の果てに、なんかわかんないけど慰められる。もう姉さん、涙ボロボロ。見なきゃ良かったって後悔。
しばらくして、話に満足した女は、クモみたいに這って窓の外から消えた。
そのまま固まってたら、いつの間にかギャル男の上に戻ってる。

「わかってると思うけど、邪魔はしないでよね。これはあたしとコイツの問題なんだからさ。」
さっきより鮮明な声が聞こえて、また髪が伸び始めたんだって。

キリキリキリキリキリキリキリキリ・・・

もう見ていられなくて、姉さんずっと目つむって反対側むいてた。しばらくして

「ゴホッ・・・」
男の咳が聞こえたけど、もうそっち見ることできなくて、降りる駅に着くまで
ずっと固まってたんだって。ギャル男の首に髪が巻きついて・・・もうそのあとは想像するの止めて震えてた。
降りる駅についたとき、もう一目散で改札へ。でも降りる瞬間に
「バイバイ」って聞こえて、そのまま泣きながら家帰ったんだってさ。ちょっと未練があって残してた彼氏のアドレス、
即効で削除したって。

そうそう、電車の中でよく眠ってる人いるじゃん?姉さんの話だと、中には「見えるはずのないモノ」を
見ないように寝たふりしてる人もいるんだってさ。


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