[リリヤンのブレスレット]

友人の話が好評で嬉しい(と喜んでいいものなのか)です。
ただまぁ、残念な事に彼女とは現在音信不通なので俺が怖いモン苦手だった事もあってか
腕イソギンチャクを「序の口」と評する以上の怖い話は聞けなかったんスよorz
でもこれだけじゃあナンなんで、覚えてる話をとりあえず書いてみようかと思います。
まるで漫画とかゲームみたいだけど、カンペキ『実話』ですので。




夏の暑い日だった。暫く振りに会った彼女は夏休みの賜物か、綺麗な日焼け姿をしていた。
「父さんの田舎に行ってたんだよね。」
ぶらぶらとその辺を散歩しながら彼女は笑った。
「思わず童心に還っちゃった、っつーカンジ?」
防風林がそこかしこにある私達の街もどちらかと言えば田舎で、蝉の鳴き声がする防風林の中に入ると
彼女は私に語ってくれた。男のクセに怖がりの私でも聞ける、ちょっと優しい話を。

『腕イソギンチャク』の一件から所謂人ではないモノを頻繁に見るようになった彼女はその夏、父親の実家に
帰省していたそうだ。彼女の父親の実家は海から----------例の『腕イソギンチャク』の出た----------程近い農村だ。
彼女が評するに『海に近い『となりのトトロ』の村みたいな』僻地だそうで。
なるべく時期をずらして帰省し、夏休みの間は父方の実家に人が絶えないようにするのが父方の従兄弟達の暗黙のルールだそうで、
父親の兄家族と丁度入れ違うように実家に着いた彼女達は暫く祖父母と雑談等を楽しんでいたのだが、如何せん暇すぎる。
年の近い知り合いがいる訳でもなし、両親は祖父母とのおしゃべりで忙しく、暇を見越していた弟は持参したゲーム機片手に
涼しい縁側でさっさとゲームをしだした。暇なのは彼女ばかり。
朝早く家を出たせいか、この街から遠く離れた父方の実家に着いたのは午前10時を回ったあたり。
あんまりにも暇なので彼女はその辺を散策することにした。じわじわと日差しが照りつけ、青い空には雲ひとつなく。
虫の音、蝉の鳴き声、風が草を揺らす音。自動車もあまり通らない辺鄙な場所で聞こえるのはそれらと自分が
アスファルトを踏みしめる音だけだったそうだ。父方の実家は日本家屋の相当古い作りで、広い庭を出ると目の前に車道、
その向うには細長く道が続いていて、彼女は無意識にそちらへ足を向けた。道の先が見える位置まで移動する。
それは、緩やかな坂道を描いていた。二軒ばかり、その道を挟むようにして家が建っていたがそこから先、その道を挟むのは
青々と茂った牧草だけ。坂道を横切るようにして小さな川が流れ、その道の頂点には古い木造の
----------開校100周年を迎える----------現役小学校が建っている。
おいそれと見れる風景ではないそこに彼女は興味を覚えて足を向けることにした。牧草地には一本だけ大きな木が天を突くように
茂り、その足元では小川がさらさらと流れている。申し訳程度の小さく短い橋を渡り、小学校への坂道を上がろうとした
------------ところで、右手に砂利道が続いているのを見つける。
近付いてようやく気付いた。砂利道、正しくは玉砂利だ。ゆるゆると視線を延ばすと玉砂利の向うには立派な森。
そこに吸い込まれるようにして石段が何段か続いて森に飲み込まれていた。
「・・・・・・鎮守の杜、か。」
小学校の前に見つけたのは神社だった。参拝道とも呼べない短い道、石段の横には社務所がひっそりと立っている。
先に神社へお参りしよう、と思った彼女は鳥居をくぐり、鎮守の杜が作った自然のアーチを抜けながら一段、一段石段を踏みしめる。
杜を抜けて神社が見えて、杜の中は不思議と静かだった。お賽銭を持っていなかったのでごめんなさい、と心の中で
謝りながら彼女はご神体に手を合わせる。それから、この杜の中を進んでちょっと見学させてもらうことにしたのだ。
神社の小ささに反して、鎮守の杜はやたらと広い。あまり降りると川にはまっちゃうなと思いながら、でも足は
ずんずんとどこかへ導かれるようにして動くのだ。ほぼぐるりと一周を回るような形になり、スタートした神社の前に着いた時。

それはいた。『それ』、というか『その子』が。

白いワンピース、眉毛の下で揃った前髪。肩より少し長い黒髪。年の頃は小学校の低学年だろうか。
顔立ちははっきりと覚えていなかったけれど『とても優しいカンジがした』そうで。
その女の子は賽銭箱の前で体育座りをしてぼーっと空を見上げていたそうだ。彼女はそれに気付いて一緒に上を見る。
鎮守の杜の深い緑の隙間から見える青空と太陽の照り返しがとても綺麗だった。
ふと、腕に違和感を感じて彼女は視線を降ろす。そこには彼女の手を両手で握り締めてじっと見上げている、あの座っていた女の子がいた。
とにかく吸い込まれそうに綺麗な黒い瞳だった。
・・・・・・なんだろう。遊んでほしいのかな?と彼女は思って、女の子と同じ目線になるようにしゃがんでから
「なぁに?一緒に遊んでほしいの?」
と聞くとそのこはこくん、と頷いた。どうせ家に戻っても暇を持て余すだけ。知り合いだっていないのだ。


続く