[降ってわいた心霊現象]
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「やばいっやばいっやばいっっ」班長が叫ぶと他の部下達もそれに追従し始め、
ただならぬ雰囲気を感じ取ったようだ。「大事な物だけ取って早くここを出たほう
がいい。はやくしろ!」皆一斉に走り出す。私の大事な荷物はポケットに入って
いたため、フロア入り口のドアを半開きに足で支えながら皆を待った。その時!

フロアの電気が消えた・・・
私の後ろにも誰かがいる・・・給湯室から戻ってきたのだろうか・・・
シーンとしたフロア内で、いきなり「ドン!ドン!ドドドドドドドドッ!!!」
ものすごい音が鳴り始めた!
真下の倉庫からの突き上げ音、屋根から何十人という人数による足踏み音、
あまりの大きさに一瞬平衡感覚を失い、よろけそうになる。
「うわぁぁ!うわぁぁーー!!まど!窓!」誰かが叫ぶ!
私たちは見られていた・・・窓の外には大勢、まさしく何十人という人数の者達
がこちらを凝視していたのだ。たまらずに座り込む。「ダメだ、無理だ」私はこの
言葉をずっと言っていたような気がする。顔を上げる事が出来ない・・・

「ドン!ガシャーン!」・・・外で事故が起きたようだ。いつのまにか音は消えて
いた・・・すかさず皆荷物を抱え込み、階段を駆け下りて外に出た。
会社の駐車場と歩道の境目の花壇が見事に破壊され、社旗掲揚ポール
寸前のところで大型トラックが止まっていた。思えばこの事故のおかげで正気を
取り戻せたような気がするが、たまらず運転席をのぞき込むとハンドルに顔を埋
めた運転手がいる。「大丈夫ですか?」声をかけると、「あぁぁーあぁぁー」と声
にならないうめき声を発している。
「やっちったーやっちまったぁー」
「まぁまだ自爆だから。相手がどうこうって言うのはないからー」
「え?えっ?いきなり集団で飛び出して来て・・・やっちったーって・・・」
ホントかよ・・・間違いない・・・さっき私たちを見てた者達だ・・・
「大丈夫、あれは生身の人間じゃないからー」と言いたかったが、なぜかその時
はぐっとこらえてしまった。

社内に戻る気はさらさら無かった。相手はいないし物損のみの事故である。
運転手の免許証をデジカメで写し、ナンバーも撮った。今日はレッカーを呼び、
メーカー修理工場で朝を待つとの事なので名刺を渡し会社をあとにする。
誰も一人になりたい奴など今日はいなかった。外の水道で顔を洗わせて、着
替えもさせる。皆で屋台に行き朝まで飲んだ。とにかく太陽がでるまで帰りたく
なかった。あすからは夏期休暇だ。
夏期休暇明け・・・
休暇中に総務の者に連絡しておいたせいか、花壇破壊に対する驚きの声は
ほとんどと言っていいほど無かった。
部下達からの声も、「あの日はちょっと信じられないっすよねぇ」などと思ったより
ショックはなさそうだった。
総務から内線が入り、打ち合わせ室に入る。

「例の事故の運転手の会社に電話しました・・・会社に戻ってないようです。
というか、戻れませんでした。あの後、メーカー修理完了後に今度はガード
レールを突き破る事故をおこし、道路下に車ごと落下し、死亡しました・・・」
「うそだろ?」
「本当です。地方紙ですが新聞にも載ったという事で、保険屋さんに提出す
るための記事をこちらにも送ってもらう手配を取ったところです。それと・・・
Kさんですが、亡くなってはいないですよ。今のところは。ただ、未遂を起こした
とのことで、今ちょうど死の淵をさまよっているところらしいです。」
ん?じゃあKの生き霊だったのか?Kがここに来た理由が分からない。

多分、守ってくれたんだと勝手に思う事にした。Kが鬱になったのは、仕事内容
ではなく、もしかしてこれだったのか?人一倍残業が多かったKは、この事を誰
よりも良く知っていたのかもしれない・・・

その後・・・誰もいないはずの倉庫で陳列棚の倒壊が二回。他の者が残業
している間に裏口からひっきりなしの呼鈴があり、開けたら誰もいない。と思っ
たらフロアのドアが開く音。給湯室での女性事務員失神事件等々、休暇
明けの辞表提出者3名というなかなかお騒がせな会社である。
ましてや、今現在も当然「それら」による現象は続いており、最悪の社内環境
である。お払いもしたが、お札はどこかに吹っ飛ばされ、サカキは次の日に葉が
ほとんど取れ落ち、水はスッカラカン、塩なんぞ誰かが全部舐めてしまったかの
ようにキレイに無くなっている。社内総勢約50名が「霊」の存在を信じる事と
なり、アンチ大○教授である。是非とも科学のチカラで解明して頂きたい。

社名を挙げる事は出来ないが、今現在求人募集をかけている。日本一長い
国道沿いの会社への就職は気をつけていただきたい。


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