[幽霊なんて入るわけない]
全く霊感のない俺が体験した話。
俺、恐くてあまり人に話したくないんだけど、春に京都から伊勢へ車で
行ったときの話をしようと思う。
会社帰りの友達を乗せて出発したから三重に着く頃には夜12時を回っていた。
俺が少し眠くなったので、友達に「恐い話でもしよう」って持ちかけた。
そうしたら、友達は乗り気で冗談交じりで知っている怪談話をし始めた。
それから怪談話は盛り上がったが、俺達は「でも、幽霊なんているわけ
ないよな」って笑った。
丁度そのとき友人が「頭痛い」って言い出して、俺は少し気味が悪く
なった。「少し休むか?」と言って、道の脇に車を停めた。
深夜で山道ということもあり、車はほとんど通らなかった。
少しして、友人が「大分ましになった」というので、車が来ていない
ことを確認して発車したら、けたたましい音でプーーーーーッとクラ
クションが鳴った。
俺は一体何が起きたのか理解できず、車のハンドルを切った。すると、
横すれすれでタクシーが走って行った。怒ったタクシーの運転手が前
にタクシーを停めて「あぶねーでねえか(こんな感じ。訛があった)!」
と怒鳴って走ってきた。俺は放心状態で「す、すみません。」と窓から
顔を出した。運転手は「連絡先を教えてくれ。傷が付いてるかも知れん」
と言って来た。夜中の山道で傷を確認するのは大変だから、警察を呼ぼう
かとも思ったが、俺は咄嗟に「すみません。ミラーでは車が見えなくて。
死角だったんでしょうか」と言い訳がましいことを言ったら、急に運転手
の表情が変わって「あ…そう。ま、もういいわ」と言って走り去った。
そのときは、友人と「まあ、良い人で良かったな」って話をして伊勢へ
向かったのだが、途中それから事故に2回遭いかけた。
俺と友人は命の危険を感じ、「偶然にしてはおかしい」という結論に至り、
車の運転をやめて漫画喫茶で寝泊りした。
翌日、友人がどうしても神社でお祈りしようと言うので神社へ行った。
それから、事故に遭うこともなく無事に帰れた。
今思うと、タクシーの運転手の表情が変わったのはもしかして…。
そう思うだけで身震いする。