[幽霊団地]

○っ○○の記憶

昭和も50年代の4月。僕たちが6年生になった最初の日、メンマが引っ越してきた。
もちまえの人懐こさに加え、人を笑わすのが得意だった彼は、
すぐクラスに馴染んで僕たちと友達になった。
そして7月。
もうすぐ夏休みだ!
授業なんか上の空で、夏休みをどう過ごそうか?みんながそう考えてる頃の話だ。

「あのさぁ、こんどうちに遊びに来ねえ?」
窓の外からセミがジージー鳴いている中、僕はパンツの上に水着をはいて、
いかに具をはみ出させずパンツを引き抜くか頑張ってる最中だった。
次の授業は、プールで水泳だ。
女子がカーテンの裏に回って、きゃーきゃー言いながら着替えていた。
中には別に見られても気にしないよ、って感じで着替えてる女子も何人もいる。
そんでもって僕ら男子は、「女の裸なんか興味ねーよ、おれら硬派だもんな」という
態度を見せながら、チラチラ盗み見てたりしているのだ。
「え?ああ、いくいく。お前、どこ住んでんだっけ」
「団地。本当は家建ててるんだけど、まだ出来ていないんだ」
メンマの両親は、家が完成する前にここに引っ越してきたのだ。
それは、新学期最初の日にメンマを学校に転校させて、
少しでもみんなと仲良くできるようしてやろう、という気持ちらしかった。
メンマがやけに僕の後ろを気にしているので振り返ってみると、
ちょうど樋口さんがTシャツを脱ぎおわったところだった。
あわてて僕はメンマの方に向き直った。
「団地って何棟?」
「5棟の4階」
「うおっ、すげーー!幽霊団地じゃん!」

当時のこの団地郡(40棟近くもある)は、ほとんどすべて人が住んでて満員状態。
にもかかわらず、一棟だけほとんど人が住んでいない棟があった。そこが5棟。
夜、明かりがともってにぎやかな団地の中で、1棟だけ真っ暗団地がなんとも不気味なのだ。
団地郡の隅に位置し、正面に薄暗い神社と汚い川が流れているのもポイントが高い。

なんでもメンマの両親は、前に住んでたところにのこした仕事の整理のために戻り、
今日は帰らないのだそうだ。
だからメンマは「遊びに来ないか」と言ってきたのだ。ひとりで部屋にいたくないんだろう。

「今住んでるとこ、夜寝てると気味悪いことあったりするんだ・・・」
メンマのこの言葉に、他人事ながら僕はワクワクしてしまった。
幽霊が出るのか?やっぱり出るんか、すげーー!
僕が遊びに行くことを了解すると、メンマはほっとしたような表情を浮かべた。
そして鼻歌を歌いながら着替え始めた。
「すーきさ、すーきよ。おっぱいおっぱいあいらびゅーん♪」
どうも彼は、話しながらずっと樋口さんのオッパイを見てたらしかった。
僕は、そんな軟弱なことしたくなかったので、女子の着替えを極力見ないようにしていた。

幽霊団地に関して、僕にもちょっとしたことがあった。
この2年位前、僕は、剣道の道場に通っていたのだが、そこに嫌なやつがいた。
打ち合いのとき、下級生の僕に毎回、思いっきり面を打ってくるヤツ。
ぼくはいつも、そいつと当たるのが嫌で嫌で仕方なかった。
そいつが住んでいたのが5棟だったと知ったいのは、
彼が一家心中で死んだとニュースになったときだった。
新聞に書かれていた知っている苗字・・・ あいつの防具に書かれていた、
ちょっと珍しい苗字。
不謹慎にも僕は、「やった、これでもう苛められなくてすむ!」と思ったものだった。
ああ、ガキだったとはいえ、本当に不謹慎なガキだったんだな・・・
ともかく心霊関係の本にも「自殺者が各地からこの団地に集まって飛び降りる」
とか記事が書かれ、おかげでこの団地には、おばあさんと、
いつもブツブツ言ってる変なオバさんぐらいしか住んでいないとのことだった。(メンマ情報

続く