[恋人の幽霊]
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私はもう恐怖を感じる事
が出来ない程酔っ払っていたのですが、さすがに凄まじい悪寒が全身を走りま
す、しかしここが勝負で負ければ死だと思い直した私は、何か言いかけた幽霊
に「ふざけるな!この化け物が!勝手に狂って、勝手に死んで!!
俺の知ったこっちゃねーよ!!、消え失せろ、二度と俺の目の前に顔を出すな」
と狂ったように怒鳴りつけ、手元のグラスを投げ付けました、すると彼女は蚊
の泣くような声で「酷い貴方は、分ってくれると思ったのに」と言い、段々と
私から離れて行きます、今の一喝で全ての自分のエネルギーと酒のエネルギー
を使った私が放心した様に見ていると、彼女はその目から綺麗な涙を流し始め
ました。そして綺麗な声で「さよなら」と告げたのです、その顔は昨日の様な
腐食した顔では無く生前の彼女の顔より美しい顔で、私達が初めてデートした
時と同じ服を着ていました、それが懐かしく、ふと彼女に対し、可哀相で、い
とおしい気になり、私も泣いていました、それを見て彼女は今まで見た事も無
いほどの美しく、そして愛らしい微笑みを浮かべ「私の為に泣いてくれるんだ、
嬉しいー、もうそれで十分だよ」なんて、健気で愛くるしい台詞でしょうか、
でも彼女に対する、いとおしい気持ちを自分の中で押し殺し「永遠に、さよう
なら」と告げたその時、彼女は天に昇るかのように消えて行きました。
いつのまにか部屋に朝日が射してしました。

現在、極めて安易で御手軽な、その時だけが楽しければ良い、そんな男女関係
が流行のようです、それを敢えて批判する気は毛頭ありませんが、人に対する
愛情と言う人間の根本的な物は過去も昔も未来永劫変わるものでは無く、流行
などと言う物とは最も無縁な物と思います。

私がこの経験によって受けた心の傷は今もそして、これから死ぬまでずっと
消える事がないでしょうが、彼女が最後に私にくれたあの愛くるしく優しい
笑顔が私にとっては救いになっていて、一生忘れる事が出来ません。

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