[釣り]

 私は3年前、妻と二人でキャンプに行きました。
 キャンプ場から車で10分ほどの所に、釣りに適した海があります。
 私と妻は、キャンプ場にテントを張り、早めの夕食を済ませました。
 そして、すぐに釣りへ出かけたのです。
 ところが、釣りを始めてから20分ほどすると、妻が「トイレに行きたいからキャンプ場に戻るけど、またここに来るね」と言い出しました。
 「ああ、行っておいで」
 「けど、しばらくしたら、車で迎えに来てくれ」
 そう言って、私は妻を見送りました。
 そして、私はしばらくの間、のんびり一人で釣りを楽しんでいたのです。
 そのうちに日が暮れ始め、しだいに辺りが暗くなってきました。
 妻がキャンプ場に戻ってから、随分と時間が経っています。
 私は妻が、まだ自分を迎えに来てくれない事に、段々と苛立ってきていました。
 だから私は、妻を待ちきれなくなり、「釣り道具を片付け、道路で女房妻を待とう」と決断したのです。
 「暗い中、女房を釣場まで歩かせるのは、危険だよな・・・」。
 私はそんな事を考えながら、リールを巻き上げ始めました。
 すると突然、リールの巻き上げが重くなり、すぐに軽くなったのです。
 どうやら、糸が切れてしまったようでした。
 ところが、そのままリールを巻き上げ続けていると、再び巻き上げが重くなったのです。
 でも今度は、前より巻き上げが重くありません。
 「妙だな・・・」
 私は不思議に思いながらも、リールを巻き上げ続けました。
 すると、海面から人間の手のような物が、糸に付いて引き上げられてくるのです。
 私は怖くなり、すぐにナイフで糸を切りました。
 手のような物は、そのまま海の中に沈んでいきます。
 「一体、あれは何だったんだ」
 しばらく私は、呆然と海を眺めていましたが「とにかく、キャンプ場まで帰ろう」と思いました。
 「道路を歩くと、女房も自分に気付くだろう」と、考えたからです。
続く