[貧乏神]
- 私が以前に交際していた男性は、非常に霊感の強い人でした。
ある日その人と、町中を歩いていた時の事です。
交差点で信号待ちをしていたら、彼が「アッ、あの人の鞄・・・」と驚いたように呟きました。
「どうしたの?」
怪訝に思い、私は彼に尋ねましたが、彼は何も答えてくれません。
それでも私は、「一体、どうしたって言うの」と、彼にしつこく尋ねました。
すると彼は、緊張した表情をしながら、こう言ったのです。
「あそこの男が、持っている鞄」
「多分あの中には、沢山のお金が入ってる」
「でも沢山の手が、そのお金をつかんでるんだ」
私は、彼が言っている男が誰なのか、すぐに見当がつきました。
男を見た瞬間、私は背中が寒くなる感じがしたからです。
その時、信号が青になり、男が歩き出しました。
私と彼も、人の流れに沿って歩き始めましたが、男との距離が縮まるにつれ、私の緊張感も否応なしに高まります。
すると彼が、私にこう、ささやきました。
「大丈夫さ」
「でも・・・可哀想だけど、関わり合わない方がいい」
そして彼は、私の手を握り締めたのです。
あんな彼は、初めてでした。
だから私は、思わず彼の顔を見ながら、呆然と歩いてしまったのです。
彼も私の事が心配なのか、私の顔を覗き込んでいました。
するとその時、「ドッ」と音がし、男が私にぶつかったのです。
男はよろめき、すぐに倒れ込んでしまいました。
そして、男の鞄から沢山の札束が飛び出したのです。
私は「すいません!」と男に謝り、札束を拾おうとしました。
すると彼が、「ヨセ!」と大声で怒鳴ったのです。
でも私は、「彼の態度に、男が怒り出すかも・・・」と考えました。
だから私は、慌てて「急いでいたので、すいません」と謝りながら、札束を拾い上げて男に手渡したのです。
- 続く