「貧乏神」
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男は札束を鞄に入れながら、「私も前を、よく見ていなかったので・・・すいません」と言い、特に怒っているように見えません。
 男はそのまま、立ち去りました。
 その時、私は彼が居なくなっている事に気付いたのです。
 私は彼に、何度も電話をしましたが、彼は電話に出てくれません。
 仕方がないので私は、そのまま一人で家に帰りました。
 家に帰ってから気付いたのですが、私は財布を落としたようです。
 でも、どこで落としたのか、私には全く見当がつきません。
 そこで私は、彼にも話を聞いてもらいたくて、もう一度、彼に電話をしました。
 今度は彼も、すぐに電話に出てくれ、すぐに私の家に来てくれる事になったのです。
 でも、私の家に来てくれた彼は突然、私に封筒を手渡し、こう言いました。
 「愛情は、多くの人を救うけど、お金はもっと多くの人を救うと思う」
 「君には、これが必要だ」
 彼の手渡した封筒の中を見てみると、数枚の一万円札が入っています。
 私は無性に腹が立ち、「何を考えてんのよ」と彼を怒鳴りつけてしまいました。
 すると彼は、泣きそうな顔をしながら
 「ごめん」
 「もう君とは、つきあえない・・・」
 と言います。
 私が彼と会うのは、それが最後になりました。
 その後、私の人生は不運続きで、今では多くの借金を抱えています。
 また、不気味な体験も、私はよくするようになりました。
 例えば、買い物の代金を払おうとお金を取り出すと、
 「お金を、持っていかないで・・・」
 と声がし、私の手やお金に沢山の手が、つかみかかってくるのです。
 その手の中には、もう一人の私も・・・
 もう一人の私は、私を恨めしそうに見ながら「どうして、お金を持っていくの?・・・」と叫ぶのです。
 もしかしたら私も、あの人達の仲間になりつつあるのかも・・・。

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