[8週目]

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とはいえ、男と女、幼馴染、同い年。断れない条件は揃っている。
引いたら負けだ。という心理には勝てず、結局やることに。

神社の入り口を出発点に、互いに時計、反時計回り。ちょうど
神社の裏に松の木が生えていて、そのへんが合流地点となる。

「行くよ・・・よぉーい、どんっ!」なんでそんなに明るい。

内心半ベソ状態で走り出す。神社の脇を抜け、松の木へ。
反対側から彼女が走ってくる。手を振ってるし、笑ってる。
周りには何も見えない。霊の姿なんてどこにもない。
彼女とすれ違いざま、彼女の「全然(見えない)」という
声だけが聞こえた。1周目はつつがなく終了。

そのまま2周目、3周目に突入。1周目で何も見えなかったことも
あり、俺も心に余裕ができ、向かってくる彼女に手を振ったり、
「いねーじゃん!みえねーじゃん!」と笑いながら叫んだりしていた。

対照的に彼女は、2周目、3周目と数を重ねるごとに笑顔が消え、
すれ違うときも無言になっていた。

「このぶんだと、8周したって全然おk」
そう思いながら迎えた7周目。彼女が俺とすれ違う瞬間、


強烈なラリアットを俺にかました。
不意の急襲に喉をやられ、悶絶する俺。
彼女は苦しむ俺の手を強引に引っ張り、「早く!」と神社から逃げるように走り出した。
わけもわからず一緒に走る俺。石段を下り終え、止めた自転車もそのままにして更に走る。

神社が見えなくなったあたりで、彼女はようやく足を止めた。

喉の痛みと走ったあとの息切れが収まり、ようやく彼女に文句を言った。
「何でラリアット???」

彼女が答える。「見えてなかったの?」

は、何がですか?別に何も、と答える俺。彼女は首を振りながら

「○○君の後ろ、2周目あたりから手とか顔とかが追いかけてきてたの。
 だんだん数が増えてって・・・7周目には○○君に絡みついてた。
 ○○君がそんなだったから、8周目はやめとこうと思って。」

もし8周してたら・・・ と俺がつぶやくと同時に、俺の背後から小さく

「ちくしょう・・・」呻くような声がはっきり聞こえた。

その声を聞いたかどうだか、彼女は
「私はともかく、○○君はやばかったね。家帰ったら、背中みてみな?」と、笑った。

彼女に言われるまでもなく、帰ったとたん、母親に
「あんた、どーしたのその背中?」

どーしたもこーしたも、シャツには手形がびっしり。
その一件以来、彼女にはいろいろと協力をさせられている。


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