[桜の木の下]

僕の通っていた小学校には ある噂があった

「タロウクンッテ、シッテル?―――。」

学校の外の神社にポツンと佇む
一本の大きな桜の木

その木下に暫く立っていると
どこかでそうささやく声がする。
ハッキリとはしないが、
確かに聞こえるそうだ。

誰か聞いたのかわからないし
噂が流れた経緯も定かではない

その桜の木はかれこれもう
もう三十年も立っていたという。

僕はその言い伝えを全くと言っていい程
信じていなかった。
何故なら、これが霊的な現象
そのものであるからとわかっていたからだ。

僕が九つの歳
一度その桜の木の下に立つことがあった。
それまでは敬遠していた場所だったが
その日はたまたまそこに立った。

確か数分程立っていたと思う。
不思議と時が早く過ぎた。
しかし、何も起こらなかった。

このときには気にも留めていなかったが、
あとでこの事を思い出して
「やっぱり 作り話だったんだ
 誰かが怖がらせようとして
 作った作り話だ」
と解釈した。

この言い伝えを知っているのは、
実はそんなに多くなかった。
自分のクラスで数人だったと思う。
しかし、僕がその噂を広めた辺りから
あっという間にその噂は学校中に広まった。

それから一年が平静に過ぎる。

5年生になった僕たちは
好奇心が旺盛になり

僕と僕のクラスメイト 昭雄 健太郎 太郎と
一度桜の木の下に全員で立ってみようという
話になった。

その日は確か晴れだった。
当時は現在と違い土曜日は短縮ながら完全に登校日だったので、
日曜の朝に神社に行くことにした。

僕の家から神社まで
500mと離れてはいないだろう。

途中の坂道で
僕の前を横切った黒いネコは
己の背中でこれから何が起こるのかを
物語っていたような気がする。

その神社は周囲が緑に囲まれている。
低学年の時に一度寄ったことはあったが
その時とはまた違う空気が流れていた。

その大きな桜の木は、神社の周りの緑の中でも
また一際違った空気を醸し出していた。
まず僕たちは一人ずつその桜の木下に立った。
最初は、昭雄だ。

「俺が死んだらマンガ返せよ」
と冗談交じりに昭雄は言う。
しかし内心は怖かったのかもしれない。

昭雄は桜の木下に立った。
2分・・・3分と 辺りを静寂が包む

「何もねーよ」

そう言って昭雄は桜の木下の
陰の中からゆっくりと外へ出た。
僕らはやはり所詮は"噂"だという事を再認識した。

続く