[たっちゃんとやばい仲間たち]


昨年の春、兄が結婚したい人がいると言って女性を連れてきた時、私たち家族はびっくりしました。

相手はバツイチで4歳の女の子がいて、兄よりも12歳年上の女性でした。
両親、祖父母とも最初は反対をしましたが、当人同士が好きあっているのならということで
最終的には円満に話が進み、結婚に賛成しました。
義姉の前夫は、呑む・打つ・借金癖・暴力と最悪な男で、子供の前で妻に暴力を振るったり
時には子供を叩いたりもしたそうで、子供は大人の男性恐怖症です。

子供がいることもあり、義姉が新婚旅行へは行かなくてもいい。と言ってたのですが
私の両親が今までさんざん苦労してきたんだから、子供は家で預かるから
旅行に行ってリフレッシュしておいでと旅行を勧めて兄夫婦は10日間、ヨーロッパへと発ちました。

実家には両親と祖父母と私の5人の大人が住んでおり、子供のMちゃんが来ました。
Mちゃんは初め知らない大人に囲まれて怯えていましたが、血は繋がっていないとはいえ
両親、祖父母共にMちゃんのことをとても可愛がり、すぐに家での暮らしに慣れました。
私のことは「お姉ちゃん」と呼び、私にも慣れて寝るときは私と一緒に寝ていました。

Mちゃんがきて3日目の夜、Mちゃんの話し声で私は夜中の2時過ぎに目が覚めました。
Mちゃんはイスに座ってゴニョゴニョと何か喋っていました。
私は寝ぼけてるのかと思い

「Mちゃん、何してるの?遅いからこっち来て寝なさい」

と声をかけました。するとMちゃんが私の方を振り返り

「あ、お姉ちゃん。今ね、たっちゃんとおはなししてるの」

と言いました。

「たっちゃって誰?誰もいないよ?夢でもみたの?」

「夢じゃないよ。たっちゃんだよ。ここにいるよ」

(前夫の暴力などが原因でココロの中にお友達でも作ったのかな?)

と思い、Mちゃんが座っているイスの近くまで行き

「もう遅いよ。たっちゃんももう眠いんだって。だからMちゃんも寝ようね」

と言い、ベッドに連れて行き寝かせました。
翌朝、母に夜の出来事を話し、専門のお医者さんに一度行った方がいいんじゃないの?と言ったのですが
少し様子を見てみるからと言われました。

私と父が会社へ行った後
母が庭で洗濯物を干していた時、Mちゃんは居間で子供番組を見ていたそうですが
居間からMちゃんの泣き声が聞こえ、母はあわてて縁側から居間に入ったそうです。
Mちゃんは耳を両手で押さえながらワーワー泣いていたので母が

「どうしたの?」

と聞くと、Mちゃんは母に泣いて抱きつきながら

「たっちゃんが髪の毛をひっぱって虐める。怖いお友達がいっぱいいて
 みんなでMのことを虐める」

と言い、泣きながら震えていたそうです。

母親がいなくて寂しいんじゃないかってことで
その日、祖父母が町内会の行事で隣町の健康センターへ行くからMちゃんも連れて行きました。
孫を連れてきてる老夫婦もいて、健康センターではMちゃんは同じくらいの年の子供達と楽しく遊んでいたそうです。

兄夫婦が新婚旅行から帰ってくるまでの間、Mちゃんは私たちにはみえない「たっちゃん」とやらと
昼夜問わず話をしていました。
時には笑い、時には怒り、時には泣いて・・・・・
私たちは母親がいないのと、前の生活のせいで精神的にバランスが崩れているのだろう。くらいに思っていたのです。

兄夫婦が戻って来て、実家に挨拶にきました。
義姉はとてもスッキリとした顔をしていました。
母が義姉にそっとMちゃんのことを話し、一度、専門家の診察を受けるようにと促しました。

その年のクリスマス、兄夫婦の家でクリスマスパーティーをするからと招待され家族総出で出かけました。
その夜は兄夫婦の家にみんなで泊まりました。兄夫婦、Mちゃんは2階の寝室。
祖父母は1階の和室。私の両親は2階のMちゃんの部屋。私は1階の居間のソファーベッドで寝ました。

夜中、台所でガチャガチャとする陶器の音で目が覚めました。
居間と台所は上部がすりガラスの引き戸で仕切ってあり、明かりがついていました。
わたしは義姉が台所にいると思い、また眠りにつこうとしました。
そのとき、パタパタと台所を走り回る足音が聞こえました。その足音は子供の足音でした。
(Mちゃんかな?)と思ったのですが、寒いし起き上がるのも面倒なのでそのまま横になっていたのですが、
台所の音が次第に大きくなってきているのに気づきました。
お皿やコップをガチャガチャしてる音、走り回っているような子供の足音。
気がつくとMちゃんの足音だとばかりおもっていた足音が複数であることがわかりました。
しかも大人の足音ではなく、みんな子供の足音なのです。
このとき私はMちゃんが言ってた「たっちゃん」の存在を思い出しました。

その時、居間と祖父母が寝ている隣の和室を仕切っているふすまが開きました。
祖母でした。

「なんだか騒がしいけど何?」

続く