[お化け屋敷の仕掛け]
あんま怖くないけど学生時代の話を。
俺が高校生の時、つるんでた仲間のうちに怖いものが好きな女の子がいて、
たまに遊園地とかいくとかならずお化け屋敷の類に入った。
いわゆる心霊スポットにいったことはない。俺がビビリだったからw
で、あるときめっちゃ怖いという噂の某お化け屋敷にいくことになり、
6人で遊びに行った。その女の子をK、他のやつらをA・B・C・Dとする。
普段お化け屋敷にいくと終始にこにこ楽しそうにしてるKなんだが、
その日はちょっと様子が違った。Kがまじめな顔して
「ねえねえ、『ヘンなものがみえたとこ』に限定して、
いくつこわがらせスポットがあるか数えてみようよ」
とか言うもんだから、これは期待してるのかな〜と思い俺は軽くうなずいた。
他の4人もだ。
「じゃあ、それぞれ別々に数えようよ!
『こわいところ』じゃなくて『ヘンなものがみえたとこ』だからね」
とKが念を押した。そこでAが
- 「Kがすっころんでパンツ見せたらヘンなものに数えていいわけ?」
とかちょっかい出して、マジ蹴り食らって笑いを取ったりしてた。
んで、すっかり和やかになった俺たちはそのお化け屋敷に入ってった。
中は思いっきり真っ暗で、足元もいまいちおぼつかないくらい。
順路とかもよく見えないんで、俺はすぐ前を歩くKの頭を頼りに歩いた。
ちょうど俺の胸のあたりの高さだったからか、不思議とKの頭は目印になった。
中は結構普通のお化け屋敷で、いきなり大きな音がしたり風が吹いてきたり。
ただなんでもない怖さを演出するのがうまくて、まっくらなのにうまくオバケだけ
うきあがらせてた。背中向けてうずくまってる子供みたいのとか、
ただうつろな目をしてたってるオッサンとか……
正直けっこうソレっぽくて、怖かった。なかには「これはねーよw」みたいな
チープな人形もあったけど。天井から着物着て逆さづりでバァー! とか。
Kはかなり真剣にカウントしてるみたいで、声も立てなかった。
いつもははしゃぎまくるくせに、よっぽど楽しみだったのかなーとか思ったり。
俺も大声立ててビビったりしながらも(ビビるのも楽しみのうちだからね)、
指折り数えてゴールまで歩いた。
- 6人そろって入って6人そろって出てきて、俺たちは売店にむかった。
外はやけにまぶしかった。真夏の真昼間だったからね。
Kはアイスアイスー、なんていっていつもの調子ではしゃいでた。
ジュースとかアイスとかそれぞれ食べながらお化け屋敷の感想会になって、Bが
「お前なんもねーところでビビるからさ〜、こっちまでこえーよw」
とか言ってきた。さすがに俺がビビりとはいえ、なんもねーところでビビったつもりはない。
「んなことねーよ、お前が気づかなかったんだろー地味すぎて。
でもあの地味な演出こわかったよな」
怪訝な顔をするB。Cは俺の話に相槌をうった。
「あーわかるわかる。あのオッサン超こえー」
「オッサン?」
「だからー、わりと最初のほうにさ、しみったれた顔したオッサンがこっちむいて
ぼーっと立ってただろ」
Bに解説してやるC。と、今度はDが「そんなんいたっけ?」と言い出す始末。
そこでアイスのコーンの最後のひとかけらを口に放り込んだKが、
「じゃあ、答えあわせしよっか」
- と言った。
「みんな、いくつあった?」
「12」
「そんななかっただろ。6」
「俺、13」
「俺も6! 6だって!」
俺は背筋が寒くなるのを感じた。Kはにこにこ笑いながら、俺に向かって首をかしげた。
目がいくつ? ときいている。
「……俺、23」
わいわい言い合っていた男どもがぴたりと黙った。
「……は? あの短いお化け屋敷に、そんなに仕掛けあるわけねえだろ」
Bは心底呆れた顔で俺を見ている。Cは俺を気遣うように、大丈夫か、と声をかけた。
「そっかあ。
あたしね、38。もうね、ちょっと歩くとすぐそこ、って感じで、すごい楽しかった」
Kは本当に満足そうに微笑んだ。
Bはぎょっとした顔でKを見た。
続く