[ヒトナシ坂]
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白装束を着た女 だった。ただし、かなり大きな。異様に長い手足。最初は宙にういているように見えたが、四本足でトンネルの壁に張り付いている。
そしてゆっくりゆっくりこちらにむかってきている。ずりっずりっ と音を響かせながら。
髪は地面まで垂れ下がり、顔には異様にでかい。目玉と口。それしかない。口からは何か液体が流れている。笑っている。
恐怖でまったく働かない頭の中で、きっと口から出てるのは血なんだろうなぁとか俺はここで死ぬんかなとかくだらないことをずーっと考えていた。
女がすぐそこまで来ている。一メートルほどのところにきたとき、はじめて変化があった。大声で笑い始めたのだ。それは絶叫に近い感じだった。
ギャァァァァアアアアアハハハハァアアアァァァ!!!!!!みたいなかんじ。人の声じゃなかった。
その瞬間俺ははじかれたように回れ右をしていまきた道をはしりはじめた。
どういうわけか入り口はあった。もうすこし。もうすこしで出られる。
ふりむくと、女もすごい速さでトンネルの中をはってくる。
追いつかれる紙一重で、トンネルを出られた。
でも、振り返らずに、ひたすら坂を駆け上がった。

それからの記憶は、ない。両親の話によると、Aの家の前で、気を失っていたらしい。目覚めたら、めちゃくちゃじいちゃんにおこられた。
あとで、俺はじいちゃんにトンネルの中の出来事を話した。あれはなんなのか、知りたかった。
詳しいことはじいちゃんにもわからないらしい。だが、昔からあの坂では人がいなくなっていたという。だから廃れたのだと。
化け物がいる、といったのは、人が消えた際、しらべてみると、その人の所持品の唐傘やわらじが落ちていたからだそうだ。
だから、化け物か何かに喰われたんだといううわさが広まったらしい。まぁ実際に化け物はいたのだが。
そういうことが積み重なってその坂は「ヒトナシ坂」と呼ばれるようになった。

ヒトナシ坂のトンネルは、去年、土砂崩れで封鎖されて、通れなくなったらしい。
あの化け物は、まだトンネルの中にいるのだろうか。それともどこかへ消えたのか。
誰にもわからない。


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