[白い子供]

見ていた人がいたかどうか知らんが、とりあえず昨日とは別の話が完成したので書き込み。
長いので小分けに貼るから面白くなかったら途中で止めるぜ。

4、5年前の話になる。
当時俺は大阪に住んでいた。長い様で短い大学生活で慣れ親しんだ街は今振り返っても鮮明に思い出すことが出来る。
あれは卒業も間際に控え日々忙しく送っていた11月の事か。俺には年の離れた友人がいた。20台前半の小僧の俺とは違い氏はその時すでに
還暦を迎えるか迎えないかの瀬戸際だったと記憶している。実家から進学のため故郷を離れ初めての一人暮らしに不安と期待で胸を一杯にし
入学式までの僅かな期間に出会い、随分と世話して貰った俺にとって恩人とも言える人であった。当時の俺はこれから始まる新生活に思いを
取れれ周囲の状況を省みる事など出来ず、氏と共に酒を飲んでは不安から鯨飲し小僧らしいやんちゃな行動をし朝に記憶をたどり死にたい思いに
駆られる毎日を送っていた。そんな俺に氏は迷惑そうな顔一つせず常ににこやかな表情と態度を示してくれていたと記憶している。
大学が始まり同級の友人も随分と出来、講義に部活に遊びにと忙しく日々を送るようになりじょじょにじょじょに氏とは疎遠になり年に1度酒を飲む
程度の付き合いになっていき、不義理な事に連絡があれば氏の事を思い出す程度に俺はなっていた。氏から突然連絡があり酒を飲まないか?と誘われたのは
色々とあった大学生活も気がつけばゴールが見え周囲も慌しくなり年の瀬も迫ったある日の事であった。

その頃の俺は人間関係でミスを犯し。疎外感、孤独感から半ば引きこもりの様に生活しており大学生活が終わる不安からくるメランコリックも併せ
周囲の人間に心配をかけ非常にギスギスした空気をつくりだしていた。そのためか友人が差し伸べてくれる手にもシニカルな視線を向け
(上辺の優しさなんかいらねぇよ・・・放っておいてくれ・・・)等と自己の内により一層沈んでいく無限ループに嵌り込んでいた。
そんな始末に終えぬ状況であったため、氏から誘いがあった時、寂しさと人と触れ合いたいという思いからか俺は一も二もなく飛びついた。
大学入学当時以上に周囲の見えぬ俺は、その時の氏がいかなる苦境に立たされれていたか、何故今更俺に等連絡を取ったか等には想像力を発揮する事
が出来ずただ自身のうさを晴らしたい、誰かに話を聞いてもらいたいと相も変らぬ自己本位な行動を取っていた。
その日、俺が体験した事は今思い返してもとても現実にあった事とは思えず、当時俺は知る事がなかったが俺が追い詰めれていたのと同様に
追い詰められていた氏。二人の悪化した精神状態が見せた幻覚ではなかったのか。そんな事を今でもふと思考する。

氏と酒を飲む時は常からそうであった様に、焼肉好きの氏がお勧めする店へと氏のメルセデスで向かう運びとなりその日も当然の様に大学をサボり
遅まきながら購入したノート型PCで日課の家ゲ板ウォッチングに勤しんでいる内に合流する時間が訪れた。久しぶりに会う氏を見て俺は我が目を
疑った。大食漢であり恰幅の良かった体は不健康に痩せ、顔色は黒ずみ目の下には隈が浮いている。(おいおいおいおい。何事だよ?)俺は内心の
動揺を隠すかの様に愛想笑いを浮かべ「お久しぶりです。」等とにこやかに挨拶した。氏はかつてそうであったかの様ににこやかに微笑みながら
「ボン。ひっさしぶりやのぉ。」と返した。その様子を見て俺は(何だ。いつもの氏か。病気でもしたのか?)と内心で安堵を浮かべ、氏と近況を
話しながらメルセデスの助手席に乗り込んだ。
食道楽でありやたら顔の広かった氏が薦める店は、一度として同じ店がなくその全ての店が料理、酒共に美味であった。見た目の変化はどうあれ
常と変わらぬ態度の氏に安心しきった俺は現金な事に今日行く店で食べる焼肉の味に期待しつつ久々に気負いなく出来る他人との会話を楽しんだ。
今なら分かるが、この時の氏も恐らくさして俺と変わらぬ心境であったのだろう。当時の他人にかまける余裕も優しさも喪失ぎみであった俺には想像すら
出来なかったがこの時、氏が抱えていた問題は俺個人の吹けば飛ぶ様な問題なぞを吹き飛ばす程大きなものであり表面上は普段通りのにこやかな態度を
示した氏の偉大さはまさに年季が違うものであった。つくづくこの時の俺は甘ったれであった。

続く