[白蛇の招魂]
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そう言うと相方は
足元に落ちてる枝を拾って地面にカリカリしはじめた

  蛇憑きの者に般若心経を唱えてやるとたいそう苦しむらしい。
  ただ、たんに苦しむだけで蛇は消えてくれない。
  放っておくと憑かれた者自身その内衰弱死してしまう。
  だが、お経を聞いて苦しんでいる時にじっと視線を合わせてやると
  たまらず飛び出してきて眼を合わせたその人に伝染るんだという。
  かわりに抜け出たおかげで元の方の害は消える。
  だから、白蛇憑きの子が生まれると 老人が身代わりになるんだという
『...生い先短い順にね。』

「じゃあ、もし いっぺんにたくさん生まれたとしたら?」
『周りの家々で交代で伝染つしていくらしい。
 なんでも、長い間憑かれると剥がれなくなるから一年とか半年周期で。
 死にそうな者が出るまで回していくんだってサね。』

「なんか凄い話やな... その、二重人格とか集団ヒステリーとかじゃあ?」
『まぁ、大抵の事はそれで説明がつくんだろうね。』
そうだ、うそ臭い。
大体、何でそんな話こいつが知っているというんだ――

『じゃあ、 試してみる?』
相方は親指を立てて【お前ら表へでろ】のポーズをとった。
指の先、
塚の真後ろには立派な蔵のある家が佇んでいた。
『今年はこの家が“持ち回り”なんだ、奥行って会ってくるといい。
             ―――ちなみに、ウチは遠慮しとくよ』
私は
「すいません勘弁して下さい」と言う他なかった。

相方はにっかり笑って
『まぁ 本人に聞かんでも話は聞けるサ
 なんせ、
 ここの老人で憑かれた事のない者は一人も居ないんだから』


その後、畑仕事をしているお爺さんに出くわした私は
先程の話をおっかなびっくり聞いてみた。

お爺さんは
『しらはぶのしょうこん(白蛇の招魂?)か、
  そりゃ有名よ』
と にこやかに答えてくれた。ただ、
『どこから来たんか?まぁ、茶でも上がっていけいな?』と、
なぜかやたらと自宅に招こうとする。
老人の誘いを
丁重にお断りした私と相方は、逃げるように集落を後にした。

お爺さんが腰にぶら下げていた鉈(ナタ)が
鈍く光っていて怖かったからではない。

『家でゆっくり話し聞かしたるけに』
そう言いって
麦わら帽子を脱いだお爺さんは
にっかり笑った。
その
禿げ上がった頭には

びっしりと

ウロコ状のアザがあって――――


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