[霊道]
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目は閉じていましたが、頬に糸くずのようなものがあたります。
(髪の毛だったんでしょうか)
胸が重苦しく、耐えられなかった私は思い切って目を開けました。
人間て、本当に怖いときって声が出ないものなんですね。
「ぎゃー」とか「うわー」とかじゃなくて、
「ソソソボボボッ」
みたいな、変な空気音しか喉から出てきませんでした。
乗ってたんです。髪の長い黒い影が。
逆光、というか、暗闇ですからシルエットしか判りませんでしたが。
目が開いて声を出すと、その「何か」は体制を変えることなく、
馬乗りの姿勢のままで後ろにザザザザっと下がっていき、消えました。
そのとたん体が動くようになり、恐怖のあまりガチガチ震える体で
布団を爪先から頭まで被り、震えることしか出来ませんでした。

早く朝がこないか、と切実に願って布団の中でしばらく震えていると、
今度は周りの布団がへこみ始めました。
へこむというか、誰かの体重がのって沈むというか。
そのへこみが私の周りを回りだしました。誰かが、寝ている私の周りを
回っているんです。
本当に絶叫しそうでした。
早く去ってくれることを願いながら、生まれて初めて「ナムアミダブツ」を口にし、
布団の中で震えていました。
結局寝ずに朝まで布団の中で震えること数時間。7時過ぎになって
外が明るくなってきたのを布団の隙間から確認してようやく布団から
出ることが出来ました。
明るくなって確認してから、またも仰天。
昨夜掴まれたと思った足首に、内出血のような変な痣ができており、
またも血の気がひきました。

その体験があってベッドでは寝ず、間反対の壁際で寝るようにして暫くのこと。
霊を感じる、見えるという友人が立て続けに二人遊びにきたことがありました。
上の体験を笑い話半分で話したこともあり、部屋を見てくれるとのこと。
部屋に入り間取りを見るなり、「あそこでしょ?」と指差されました。
確かに指しているのはベッドの足元。
何で判ったの?と聞くと、「だって、霊道通ってるもん。あっち側に
墓地あるでしょ?」
答える友人。
確かに、指差した方角には墓地があります。
最初の一人ならともかく、後に来た友人も同じことを言います。二人は
住んでいるところも、K県、O県と違い、全く面識もないはずなのですが。
後に来た友人に詳しく聞くと、霊道がベッドの角をかすめて通っているとのこと。
私が見たものは、特に悪いものじゃなく、たまたま通っている道にあったものに
興味を示しただけだろう、と友人は話してくれました。
害はないとは言ってくれましたが、それ以来そのアパートを出るまでそのベッドを
使うことはありませんでした。

長々とすみませんでした。


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