[施餓鬼]

その年の瀬戸内は大変暖かくて3月にはもう桜が咲き始めていた
後輩曰く、この時期に既に桜が満開の穴場があるとか抜かすので
お花見をする事となった。
ちょっと山手に上がった所だが、見事な枝垂れ桜が満開だった。
席は大いに盛り上がり、私は下戸のくせに大いに飲み大いに食べた。
酔っ払ってて覚えてないが、いろいろ変な事口走ったらしい。
挙句、上半身裸で寝てしまったらしい、覚えてないが。
例年より暖かいとはいえ3月、案の定風邪を引いてしまった。
滅多に風邪引かない分、いざ引くと往々にしてロクな事が無い。
そんな感じの話。
熱で頭がボーッとする。
食欲なんて無いハズなのに無性に米の飯を食べたくなった。
始めはお粥など炊いたりしていたが、面倒になって
炊いたご飯を炊飯器から直接食べ始め..
終いに「もう炊くのも面倒だ」と、私は生の米をそのままバリバリ食いだした。
自分のやってる事が理解できなかった。
いくら食べても胃が空っぽな気がした。
この辺から意識が飛び始め自分の行動が曖昧になるのだが――
たしか、レトルトカレーのルーを袋ごと啜ったり
乾麺を生で齧ったりしてたようだ。
まったく自分のやってる事が理解できない。
普段から2週間分の食料は置いてあるが、それをおよそ4日で食い尽くしてしまった。
自慢じゃないが私の体重は56kg、普通はこんなに食えるハズはない。
食っても食ってもお腹は減り続ける。

「ひもじい」
    空腹と倦怠感が全身を襲う
空っぽの冷蔵庫の前で茫然自失となる。買出しに行こうにも体力の限界だった。
ふと脳裏に「死」の1文字が浮ぶ。 
こんなんで死んだら恥だな―― と考えてた矢先、電話が鳴った。
「悪質な風邪なので3日くらい休む」と研究室には言っておいたが
例の友人からだった。『もしもしー♪』1オクターブ高い声。
『治った?大丈夫?お見舞い行こうか?』ありきたりな事を聞いてくる。
私はもはや「あー」だの「うー」だのしか返事できなかった。
ただ事ではないと思ったのだろう『あー 待ってち、今から行くけぇ』と言って切れる。
(助かった..かな。)
今考えると死にそうになるもっと前に初めから電話で助け呼べば良かったのだが、
脳に栄養が回ってなかったのだ。仕方がない。

続く