[写真]
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「真ん中で写る人は先生だとか上司だとか、年配の人が多い
から、早く死に易いですよね。昔の写真を見ながら、ああこ
の人も死んだ、この人も死んだ、なんて話してると自然にそ
んなうわさが立ったんでしょうね」
「じゃあこんな写真はどう思う」
師匠はそう言うと、白黒の古い写真を出した。
どこかの庭先で着物を着た男性が3人並んで立っている写真
だ。
その真ん中の初老の男性の頭上のあたりに靄のようなものが
掛かり、それが顔のように見えた。
「これを見たら魂が抜けたと思うよね」
たしかに。本人が見たら生きた心地がしなかっただろう。
師匠は「魂消た?」とかそういうくだらないことを言いなが
ら写真を束のなかに戻す。
「魂が取られるとか、抜けるとかいう物騒なことを言ってる
のに、即死するわけじゃなくて、せいぜい寿命が縮むってい
うのも変な話だよね」
なるほど、そんな風に考えたことはなかった。

「昔の人は、魂には量があってその一部が失われると考えて
いたんだろうか」
そういうことになりそうだ。
「じゃあ魂そのものの霊体が写真にとられたら、どういうこと
になる?」
「それは心霊写真のことですか? 身を切られるようにつらい
でしょうね」
と、くだらない冗談で返したがよく考えると、
「でもそれは所詮昔の人の思い込みが土台になってるから、
一般化できませんよ」
俺はしてやった、という顔をした。
すると師匠はこともなげに言う。
「その思い込みをしてる昔の人の霊だったら?」
うーむ。
「どういうことになるんでしょうか」
取り返しにくるんじゃない?
師匠は囁く様な声で言うのだ。
やめて欲しい。
そんな風に俺をいびりながらも、師匠はまた難しい顔をして
写真を睨みつけている。
部屋に入った時から同じ写真ばかり繰り返し見ていることに
気づいた俺は、地雷と知りつつ「なんですか」と言った。

師匠は黙って2枚の写真を差し出した。
俺はビクビクしながら受け取る。
「うわ!」
と思わず声を上げて目を背けた。
ちらっと見ただけで、よくわからなかったが、猛烈にヤバイ
気がする。
「別々の場所で撮られた写真に同じものが写ってるんだよ。
えーっと、確か・・・」
師匠はリストのようなものをめくる。
「あった。右側が千葉の浦安でとられたネズミの国での家族
旅行写真。もうひとつが広島の福山でとられた街角の風景写真」
ちなみに写真に関する情報がついてたほうが、高い値がつく。
と付け加えた。
「もちろん撮った人も別々。4年前と6年前。たまたま同じ
業者に流れただけで、背後に共通項はない。と思う」
俺は興味に駆られて、薄目を開けようとした。

続く