[顔]
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僧侶が神官の一党に襲われ、不動明王など密教系の仏像
はすべて寺の庭に埋められて、のちに廃寺とされた。
弾圧の熱が収まりはじめたころ、貴重な仏像が坑された
という話を聞きつけて、近隣の山師的な男がそれを掘り
起こそうとした。
ところが土の中から出てきた仏像は、すべて憤怒の顔を
していたという。
元から憤怒の表情の不動明王はともかく、柔和なはずの
他の仏像までもことごとく、地獄の鬼もかほどではない
という凄まじい顔になっていたそうだ。
その怒りに畏れた男は、掘り出した仏像に火をかけた。
木製の仏像は6日間(!)ものあいだ燃え続け、その間
「おーんおーん」という唸り声のような音を放ち続けた
という。
あまりに凄い話に俺は、気がつくと正座していた。

「何年かまえ、人間国宝にもなっている仏師が外国メディ
 アのインタビューを受けた記事を読んだことがある。
 記者が、どうしてこんなに深みのあるアルケイックス
 マイルを表現できるのでしょうかと聞くと、仏師はこう
 答えた。
 『彫るのではない。わらうんだ』
 これを聞いたときは痺れたねぇ・・・」
めずらしく師匠が他人を褒めている。
俺は命を持たない像が、感情をあらわすということもあ
るかも知れない、と思い始めた。
「そうそう、僕が以前、多少心得のある催眠術の技術を
 使って面白いことをしたことがある」
なにを言い出したのか、ちょっと不安になった。
「普通の胸像にね、ささやいたんだ。
 『お前は石にされた人間だよ』」
怖っ
なんてことを考えるんだこの人は。
そしてどうなったのか、あえて聞かなかった。


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