[裏クレヨン]
前ページ

クレヨン2

 私が息子の所に来た時、すでに息子は死んでいたのです。
 息子は部屋中に「おとうさん だして」と書いていました。
 息子は飲み込んでいたクレヨンを吐き出し、そのクレヨンを使って書いていたのです。
 息子は、さぞかし寂しく不安な気持ちだった事でしょう。
 私はすぐに、息子の亡骸を部屋から出して上げました。
 そして私は、
 「ごめんな」
 「ごめんな」
 と泣きながら、何度も息子に呟き続けたのです。
 息子の葬式中も私は、息子に対して申し訳ない気持ちで、いっぱいでした。
 だから私は、息子が安らかに成仏できるよう懸命に祈ったのです。
 でも、無駄でした。
 息子は、まだ成仏できずにいます。
 その後も、息子を閉じこめた部屋から、声が聞こえました。
 「おとうさん だして」
 「おとうさん だして」
 と、息子の声が・・・。
 息子は、部屋中に「おとうさん だして」と書いていました。
 椅子に登り、高い所にまで・・・。
 そして息子は、椅子から滑り落ち、恐怖のあまり目を堅く瞑ったまま、死んでしまったのです。
 私は息子の声に耐えられず、家を売りました。
 そして、今でも私は、息子を閉じこめた部屋に近付く事がありません。
 きっと息子は、今でも目を閉じたまま、出口も分からずに叫び続けているでしょう。
 「おとうさん だして」と・・・。

 行き場を無くした、ぜんぜん怖くない話を書き込んで、すいません。

次の話

Part13menu
top