[人間の方が怖い]

あれは忘れもしない10年前の夏の夜のことです。
当時私は仕事に追われ、毎晩終電で帰る毎日でした。
その日も終電で最寄の駅に降り、2km離れた社員寮まで歩いていました。

いつもは少し回り道してコンビニに寄ったりするのですが、
その日はそんなことは考えずに、自然に寮の方に歩いていました。
ふと気が付くと見渡す限り、私以外に人影はありません。
ちょっと気味が悪かったのですが、道には街灯もありますし、
少々ビビリながらも足早に歩いていたように記憶しています。

その道は150m程度の直線道路で、歩道は片側にしかないため、
私も当然のように歩道を歩いていたのですが、
それは突然私の目に飛び込んできたのです。
前方100mに白い服を着た女性・・・
私の瞳は時間が止まったかのようにその女性を見据えたままです。
寮へと急いでいるはずの足は固まっています。
「ゆ・幽霊?おいおいマジかよっ!」私は独り言を呟きました

しかし、私の心配は次の瞬間打ち消されました。
よく見てみると50歳位のおばさんのようです。
「なんだ・・・人間じゃん!当り前か(笑)」←これも独り言
安堵し、先程まで固まっていた足も再び歩みを始めたその瞬間・・・
なんと、その女性は進行方向である私に向かって急に走り始めたのです。
しかも「キャハハハハ・・・」と叫び、右手をガードレールに触れながらです。
完全に意表を突かれた私はパニック状態になり後ずさりしました。
そして彼女との距離が10mになった時、私の恐怖は最高潮に達しました。
しかし逃げ出したいのに足がすくんで動きません。
私はガードレールとは反対側の壁に背をつけて、
彼女の走りを邪魔しないようにへばりつきました。

彼女との距離5mのところで私に気づいたのか、彼女は立ち止まりました。
もちろん視線は私の瞳を捕らえて離れません。

続く