[指定された部屋]
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次の日、三人で朝食を採りながら、
私 「昨日の夜中に誰かトイレに行かれました?」
答えはNOでした。
私 「じつは…、」
昨晩の出来事を話しました。
上司「夢だろ?(笑)」
私 「でも…、程良く酒が入ってて夜中に目覚めたことなんて、今まで一度も無かったんですけどね…。お陰で寝不足ですよ。」
上司「帰りの新幹線でゆっくり眠ればいいじゃん。」
私 「そうします。」
外に陽があると、私の中でも昨夜の出来事は夢か錯覚だったのかと感じる様になってました…が、最後に確信させて貰えました。
チェックアウトの時です。
フロントの小太り中年男の目が昨日にも増して笑ってました。
私には全てが解りました。この男は確信犯なのだと。
最初、私だけにあの部屋を指定してきたことや、寝不足気味の私の顔をみて昨日以上に笑っているその目は、きっとあの部屋には何かがあるのだと。
何かがあるにも拘わらず、私を宿泊させたのだ。臭いから察して、私が泊まるまで長らく利用されて無かったのだろう。
鍵を手渡す際に私はその手をしばらく離さず、その男を睨み付けました。
男の目は笑いながら正に
『見えました?どうです?何か見えたでしょう?』
と言わんばかりでした。
私 「お陰様で、よく眠れましたよ。」
私は皮肉混じりに声に出して答えました。男の暗黙の問いへの答えの筈なのに、男は戸惑うことなく私の答えを受け入れた様子でした。
そして私達はホテルを出ました。
話はこれで終わりです。
私が泊まる以前にあの部屋で何があったのかは知りません。真相は何も解らないままですし真相など何も無いのかも知れません。ただ私が十年経った今も忘れられない怖い思いをしたとあるホテルでの体験談でした。
当時は、怖い体験と共にあのフロントの男の行動に憤りを感じていて、あのホテルにはもう二度と泊まるものかと思ってました。
この文章を書いていて、今から思えばやっぱり錯覚だったのかという思いもあり、もう一度泊まって真相に迫ってみたいとも思いましたが、十年という歳月は少し長すぎた様です。今ではホテルの名前も部屋の番号も覚えておりません。
現場へ出向くことが出来れば薄らいだ記憶も戻って来るとは思うのですが、その後、会社を退職し別の職種で独立した私が栃木へ出向くことはまずないでしょう。
皆さんも、もし何人かでホテルを利用する際、あなただけが部屋の指定を受けたり、フロントでの対応に違和感を感じたならば、その夜は何かが起こるかも知れません。
乱文にて長々と綴ってしまいましたが、最後までお読み下さって有り難うございました。