[罪悪感]
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変な時間に寝てしまったこともあり、
わたしはその晩もまた遅くまで彼から聞いた話を書き留めていました。
気味が悪い、それしか感想はありません。
彼の過去に対する根深い罪悪感が起因しているのだろう、
わたしはそう結論づけることしかできませんでした。
翌朝わたしはなに食わぬ顔をして、彼の車に乗り込んで次の目的地に出発しました。
心配だったから。できるだけ彼のそばにいてあげようと思ったから。
その日は400キロ近い長距離を走らなければ行けませんでした。
2時間に1度車を休ませながら単調な景色を眺めていると、
わたしはいつしか微睡んで意識がなくなり、彼の切羽詰まった声で現実にもどりました。
わたしにはとても短い間です。「おい、大丈夫か?」彼は車を端に寄せ、
半ばおびえた様子でそう問いかけてきました。わたしは「なにが?」と困惑しながら彼の顔をみると、
にわかに夢の残像がよみがえり始め、いまにも消えそうなイメージを紡ぎ止めようと目をつむりました。
わたしはどうしようもない怒りを抱いて、潜水服の男と対面していました。マスクを外したその男は彼です。
「おい、どうした?」もう1度、彼に呼び戻されました。
そして、わたしは彼に問いただしました。彼の見た潜水服は誰なのか、マスクの下は誰だったのか。
彼は驚きながらも、短く低い声で「俺だ」と答えて、「でも、どうして」と詰まりました。
わたしはなんと言っていいものやら、とまどい、考えあぐねているうち、
彼は「おまえは一体どんな夢をみてたんだ?」と呟きました。
「いままで教えなかったけど、気味が悪いことばかりお前は言うんだよ、寝ている間に。
さっきも突然『おまえだけ帰らせるかっ!』とかなんとか言ってた。流石にこんなこと初めてだったから起したんだよ」

わたしはショックでした。夢のなかでなにかを必死に叫んでいた覚えがあったから。
また、わたしは彼が本当と嘘を言ってるのだと思いました。
なぜなら夢のなかのわたしは「死ね」と何度も叫びながら、彼を刺していたからです。幾度も幾度も。
彼が車を発進させてから、わたしたちは終始無言でした。どちらかが、なにか言い出せば現実になりそうで怖かった。

ここで大筋の話は終わり。
日記を読み返して、忘れていたことが多すぎて本当に過去にあった出来事なのか、
それとも記憶の産物なのか区別できない。そういうことってよくあるでしょ。
どちらにしても、作り話として読んでもらわないと困る。懺悔?告白します。今でも苦しめてる。

大きな衝撃と音で目が覚めた。目の前の光がいびつに屈折し、
焦点が合わずにいるのかと思ったけど、それはフロントガラスのクモの巣のように張ったヒビのせいだった。
その真ん中には赤い血のようなものまである。
隣にいるやつはハンドルに額を軽く何度もぶつけながら「やっちまった」と涙声でつぶやいてた。
頭の中にはすぐ「カンガルー」が思い浮かんだ。
夜行性の動物が道路から光に誘われて飛び出してくるから、夜は車の往来はほとんどない。
市街地は別だけど、タイヤ交換に手間取って予定より大幅に遅れ、
漆黒の帳が降りてからも走ることを余儀なくされてた。
「やっちゃったものはしょうがないでしょ、早くいこうよ」そう促すと、
あいつは「そうはいかないだろっ」と声を荒げて、ドアを開け外にでた。
カンガルーを轢いた場合、道路脇に移動させるのが常識。
だけど実際は死なずに瀕死の状態だったとき、
近寄るとこっちに被害を加えることが多いからそのままにしておくのが普通。
注意しようとして、あいつがカンガルーではないものを引きずっているのを目撃した。

連絡先を交換しないままあいつと別れた。だけど帰国してメールが届いてた。
思い出したくもないから、少しほっといたけどあいつの生死を確かめようとおもったの
別れてすぐの日付だったかなあんな原始的生活が行われてる田舎で、
どこでメールを送ったんだか、不思議でしょうがない。それにはただ短くこう書いてあった

続く