[北海道のヒグマ]
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九日目。
今日も、きりがこい。
クマはしばらく近くにいるようだったが、ひるごろどこかへいった。
中央でかたまったまま、すこし眠る。ひどくしずかだ。
夕方、クマのあしおとでおきる。
ついとつされると泣きさけびたくなるが、どうにかたえる。
かえりたい。
クマはなぜ、おそってこないのだろう。
十日目。
きょうもきりがこい
ごご、Dがたちあがってしずかにでていった
とめなかった
きりがはれない
クマはよるおそくにきた。きがくるいそうだ
十一日目。
きょうも きりが
こい
くまは いる
十二日目。
今日も霧が濃い。
思いのほか、長くなった。すまない。
このパーティの登山届は、事前に警察に提出されていたため、異常事態は発覚していた。
しかしまれに見る悪天候に、ふもとの警察は捜索をしあぐねていた。
天候が復活し発見されたのは、無人のテントと荒らされた荷物。日記。
最初に出て行ったCはテントから50メートルほどのところで遺体で発見された。
喉の傷が致命傷となり即死。
次に出て行ったEは、登山道の途中、崖から滑落。遺体で発見。
Bは一キロほど離れた場所で無残に食い散らされていた。
Dはルート途中の崖下から遺体で発見。
Aは行方不明である。
以上が、俺が友人から聞いた話。
これは、北海道で山を登る人たちの間で一時期流行った都市伝説なのだそうだが、
実際にクマに襲われ壊滅したパーティはあったようだ、とも友人は言った。
その人たちは、ほぼ素人。登山届けも提出せず、発見も遅れた。
現場の状態から、どうやらクマに荷物を奪われたところを、
取り返しに向かい返り討ち?にあったらしい。
北海道のフィールドを歩く皆さん、どうか、クマにはご注意を。