[俺が入れたもの]
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居間を後にした俺は一人寂しく部屋に篭り、精神に変調を来たしてしまったに違いない母と弟の行く末を思いました。
鬱状態のまま夕食の時間を迎え、俺は気まずい心情で飯を食いまた部屋に篭りました。
部屋に篭ってみたものの、いつもは弟と笑って見ているバラエティー番組も
母につきあって仕方なく見ていたドラマも、一つも楽しくありません。
家に居るのも哀しくなり、俺は近所のレンタルビデオショップに行きました。
暫くそこで時間を潰しましたが、結局何も借りる気がせず入り口横の自販機でお茶だけ買ってその場を後にしました。
家に帰るまでの道がかなり長く感じられました。それでも暫く歩くと我が家の明りが見えてきます。
家族はあんなに壊れてしまったのに、こうやって外から眺めるといつもと何ら変わらない明りを灯していて、
母と弟の言動が脳裏に蘇り俺はなんだか泣きたくなりました。
最初の方で書いた通り、我が家の庭からは細い道路が伸びています。俺はそこを歩いていた訳ですが、
そこまで来ると部屋の明りで暗い外からはカーテン越しの家具のシルエットとかが見えたりします。
弟は部屋に戻っているようで、俺の部屋からは薄黒い人型のシルエットが見えました。
もう少し歩くと部屋の影はさらに濃く見え、弟はどうやら着替えをしているようで上着を着るような動作をしています。
俺は下を向いて歩きました。弟を見たくなかったからです。街灯に照らされた足元ばかりを見て歩いて、
細い道から庭に入りました。足取りが重くなってきます。窓を見上げると、弟はまだもたもたと服を着ていました。
居間からはテレビの音声と笑い声。母と父、弟が笑っています。
そこで俺はやっと異変に気付きました。俺に弟は2人いません。
つまり居間に家族が集まっている今、俺の部屋には誰もいない事になるのです。
窓を見上げました。それはまだシルエットだけで服を着ています。いや、服を着るような動作を続けています。
家の中には確かに何かが居たのです。俺は玄関に飛び込みました。
最後に見上げた窓の中ではまだそいつが腕をぶらぶらさせていました。

俺はそのあと弟に付いてきてもらって、部屋を確認しに行きました。
部屋の中では勿論誰も服を着ていたりはしませんでした。
その日は何事も無く眠れました。と言っても俺は死ぬほどガクブルしていてろくに眠れはしなかったのですが。
そしてつい先日の話です。こんどは母の部屋に来たそうです。
と言っても金縛りにあったとかそう言うのではなく鏡に映ったと言うのです。
俺には良く分からないしはっきりと見えもしないのですが、そいつは確実に我が家に今もいます。
何よりも一番不思議なのはあの服(上着)を着る時のような動作です。
腕をぶらぶらさせながら肩を揺らすあの動作は思い出しただけで今でもぞっとします。

風貌と言うかシルエットでしか自分は見た事がないのですが、
上着の片方に袖を通して袖を通した腕の方をぶらぶらさせて反対の腕でもう一方
の方の襟を掴んで居る感じ。ですかね。それでもっていかり肩で左右に揺れてました。
なんて言うか良くファンタジー系の映画で巨人が出てくるときのあの歩き方です。
細かな色とか顔?とかは肝心の我が家の見える人達、教えてくれないのです。
分からない方が良い、とか言うあのお決まりの台詞を吐かれます。


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