[屋上恐怖症]
前頁

田中と伊藤が叫びながらこちらに向かってくるのが見えた時、私の背中は
フェンスに張り付いていました。

首と両肩、そして二の腕までが重くなり、自由がきかず、まるで引きずられるように
身体が宙に浮く感じです。
私の両足に田中と伊藤がしがみつくのを、まるで夢でも見ているように眺めていました。
「おいっ、嘘だろっ」
伊藤がしきりに喚き、田中がお経を唱えていました。
後から駆けてきた山田が私に抱きつき、四人もみ合うように転がりました。

身体の自由が戻ったと同時に、私は我に返りました。
そして、みんな転びそうになりながら、その場から逃げ出したのです。

全員落ち着きを取り戻し、冷静になったのは明け方でした。
深夜営業のファミレスで、最初に口を開いたのは伊藤でした。
「おまえの肩から上、黒い煙みたいなのに覆いかぶさってきた」
田中は違うものが見えたそうです。白い煙みたいなものが、風に流されるように飛んできて、私の周りでぐるぐる渦巻いていたそうです。

「俺ははっきりとじゃないけど、人が見えた。男二人と女一人」
山田は消え入るような声で言いました。
「女の方が、俺のこと睨んでた」

私は何も見なかったです。
ただ、屋上に出る扉は、二度と見たくないですが。


次の話

Part127menu
top