[屋上恐怖症]
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結局その夜はまあ面白かったってことで解散しまして、その二日後ですかね。
いつものように集まると、山田(仮名)が奇妙なことを言い出しました。
「今度行ったら何か起こると思うな」
つまり、あの照明が突然切れたことは、何かのサインだと言うんですよ。
あそこにいた四人に対する挨拶だったと。
私は思わず言い返しましたね。
挨拶ではなく警告だ、と。

伊藤は偶然だと言い、田中が確認する意味はある、と提案したことで、
翌日、再びあのマンションに行くことになりました。

階段は真っ暗でしたが、それぞれが懐中電灯を持参していたので、大丈夫でした。
前回と同じように、伊藤がドアに手をかけました。
「開いてる」
みんな無言で階段を駆け下ります。
「やばいよ。やめよう」
そういう私を、山田が挑発しました。
「怖いのか。それじゃ肝試しにならないな」

「でもさ、あのドアの向こうに何があるか知りたくねえか?」
伊藤がそう言うと、田中も乗ってきました。
とりあえずじゃんけんでドアを、開ける者を決めることになりました。

「屋上のフェンスでも柵でもいい。一番最初に言った奴が、そこに鍵をする」
田中は私に小さな南京錠を手渡して言いました。
「次に行く奴が鍵を外して持ってくる。その次はかけて、最後が持ってくる」

外開きのドアノブをゆっくり回すと、一瞬向こう側で誰かがノブを引いたような
気がして、思わず声を上げました。
伊藤がドア枠を手で押していたせいかもしれません。
ドアの向こうは月明かりのせいか意外と明るく、見渡すことができました。
補助水槽のタンクと共同アンテナがあり、周囲はフェンスで柵がしてあります。
「どこに鍵かけるんだ?」
田中に訊ねると、どこでも好きな場所でいいよとのこと。
私は最短距離を選び、まっすぐに歩きました。
出入り口より十メートルほど離れたフェンスに鍵をかけ、見守る連中に向けて
ライトを照らしました。
多少の怖さはありましたが、次の山田に対する牽制で葛藤していたような気がします。
確かに、自殺者が飛び越えたであろう場所に長くとどまるのは、気持ちの良いもの
ではありませんからね。

そして足早に立ち去ろうとした時のことです。
急に首と両肩が、何か重く感じました。
あっ、と思った瞬間、足を取られ、倒れるかのよう腰砕けになりました。
続く