[第三の男と地蔵]
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「・・・・・・・」
「ちゃんと、入ってるの、それ?」
「・・・・・・・・・・」
「ねえ」
「聞こえないでしょ?なんにも」
「ああ」
「深夜にね、家の中でテープをまわしておいたんですよ。」
「は?」
「自分は外出してね。家の中の音を拾うように、テープをまわしておいたんです。」
「・・・なんで、そんなことしたわけ?」
「だって、留守の間に、何かが会話しているのが、録音できるかもしれないでしょう?」
「・・・・・・何かって・・・・・なんなんだよ?」
「・・・・・・・・・・」
Y君は、相手が答えなくてよかった、とはじめて思った。と、いうよりも、それ以上その
男と会話をしてはいけないと思った。背中に、気味の悪い汗がにじんでいた。
ぞっとするものがせまい車内にみなぎってきた。
とたん、隣の看護婦さんが悲鳴をあげた。「ッ!!!」
窓の外にはまた、地蔵たちが並んでいたのだ。頭が割れ、目がえぐれ、ギザギザの口で
ゲラゲラと笑い続けている、あの異様な石の地蔵たちが・・・
「止めろ!」 運転手は何も言わない。
「車を止めろ!!」
Y君はもし運転手が言う事を聞かなかったら、力ずくでも車を止めるつもりだった。
だが、以外にも、車はあっさりと静かに止まった。運転手は何も言わないままだ。
Y君と看護婦さんは、転がるようにして軽自動車から降りた。車はすぐに再発進して
赤いテールランプが二人の前から遠ざかって行った。
Y君はぼんやりと辺りを見回した。看護婦さんもそうだった。二人は顔を見合わせた。
街灯の光しかなかったが、お互いが蒼白になっているのが分かった。足がガクガクした。
そこには石の地蔵などはなかった。それどころか、近くには海の音が聞こえていた。
そこは、あの海浜公園のすぐ側だった。。
「・・・どうやってぐるりと戻ってきたのか全然分からないんです。だって、今しがたまで
郊外の道路を走っていたはずなんですから・・・」
それだけではなかった。問題の3人目の男について、
「翌日、友人に連絡を取ったら、予定していた3人目は1時間、時間を間違えて
待ち合わせ場所に来てしまっていたらしくて、そのまま待ちぼうけてその日は
帰ってしまったって聞かされたんです。」
それでは、一緒に合コンに参加し、Y君たちを乗せたあの男はいったい誰なのか?
後日、Y君は自家用車であの時とほとんど同じコースをたどる機会があったのだが、
道路のどこにも、あのえんえんと続くいやらしい石の地蔵などはなかったらしい。
あのドライブは現実のものだったのだろうか。現実だとしたら、自分たちはいったい
どこを走り、そしてどこに連れていかれるところだったのだろうか・・・