[先輩の彼女]

今から十年ぐらい前の話
大学新卒で東京のある出版社に勤めることになった
会社の寮は千葉県M市にあり6畳の部屋が二つのトイレ、キッチン、バス共用の相部屋
オレは1年先輩のヒトと一緒になる
その先輩は基本的には良いヒトでオレにも親切だったが女癖が悪いのが玉に瑕
とっかえひっかえの複数交際をしていた
俺が寮に入る前は(彼一人だったので)よく女を連れ込んで同僚の顰蹙を買っていたそうだ
俺が入ってからは収まったものの、実際は内緒で連れ込んでる事もたまにあった
(寮といってもアパートを会社が買い取って改築した物、管理人等はいない)
「アイツいつか女でえらい目に会うぞ・・・」
週末の寮での飲み会でよく酒のつまみにされていた

そんな先輩にいよいよシャレにならない出来事が起こる

週末の或る日、先に部屋に帰ったオレは風呂に入っていた
ドアが開く音が聞こえて誰かが入ってくる 
湯船でくつろぎながらオレはその先輩が帰ってきたのかと曇りガラスに目をやった
しかし先輩ではなかった
髪の長い女のヒトがスッと横切って行くのがハッキリと見えた
その時妙な胸騒ぎがしたのだが
「またか、しょうがないヒトだな・・・」またいつものように女のヒトを連れ込んだのだ
そう思った

風呂から入ったオレは隣の部屋にハッキリとヒトの気配を感じながらも
知らぬ振りを決め込んで布団に入った

オレはその夜はじめての金縛りを経験することになる

疲れてたオレはすぐに眠ってしまった
明け方近くだったと思う
女のヒトのうめき声とも泣き声とも区別のつかない異様な声で目を覚ます
(金縛りの状態だから意識が目覚めただけで体は動かない)

その異様な声は初め聞きとれない意味不明の音だったが次第に「○○!」「○○!」
(先輩の名前)と聞き取れるようになる
オレは目を開けれなかった
恐怖よりも金縛りにパニくって体を動かそうと必死だった

そのあとブラックアウトしたまま朝になって(ホントに)目を覚ます

異様なほど寝汗をかいていた・・・

体が重たく起き上がるのが辛かったが、すぐに隣の部屋をノックする為に起き上がる
「○○さん!います!?」
部屋から反応は無い
玄関を見ると靴はオレのだけで先輩のは無かった
もちろん女性の靴も・・・

『なんだ、先輩帰ってなかったのか?それとも女のヒトともめて早く出て行ったのか・・』

オレは昨夜の金縛りは単なる疲れがもたらした物だろうと納得しようとした
しかし風呂で曇りガラス越しに見た髪の長い女のヒトが妙に頭から離れなかった
続く