[黒い物体と謎の音]

一年程ぐらい前の話。仕事で疲れて家に帰ってきた俺はそのまますぐに寝てしまった。
目が覚め起きると夜中の1時半ぐらい。このまま寝て朝風呂入るのもめんどくさいので
ウトウトしている頭を持ち上げて風呂に入る事にした。
怖くはなかった。霊の存在は信じてたけど自分は全く霊感ないし今まで一度も霊体験を経験した事なかったから。
服を適当に脱ぎ捨て全裸になっていざ風呂場へ。
シャワーを浴び俺鼻歌を歌い出す。何か気分がいい。
まあごく普通だが俺の風呂場の隣には洗面所がありドア一つで連結している。
風呂場から洗面所へ向けて出るドアの真正面には洗面台が設置しておりそこにはごく普通のサイズをした鏡が設置してある。
そしてそのドアはうまく言い表せないがモザイクのかかった透明なガラスみたいのでできていて
風呂場から洗面台の様子をモザイクがかかった感じで見る事ができる。逆もまた同様。
まあ少なくともそこに人の存在は確認できる形の造りになっていた。
俺シャワーを浴びている最中ふとドアの方に視線を向ける。
そこにはボンヤリと黒い影らしきものが移りこんでいる。
気にはならなかった。どうせ姉貴だろう。うちの姉貴は夜中起きている事が多くて
俺が風呂に入っている最中に洗面所で何かしている事は珍しい事ではなかった。
俺、シャンプーリンスをしてその後丁寧に体を洗い、いざ湯舟の中へ。
またドアの方に視線を向けるとまだ黒い影がボンヤリと…。
俺今日はいつもより随分長いな…と思いながらもさほど気にもしなかった。
するとシャワーを浴びている時はシャワーの音で聞き取れなかったけど洗面所の方から音が聞こえる。
「カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…」
さすがに俺も不気味に思ったがまだ心にはいくらかの余裕がある。
でも少しでも感じたこの不安を早く拭い去りたくてこの黒い物体に声をかける。
「なー?姉貴何しとんの?」
返事がない。もう一度声をかけるがそれにも応答せず…。
それでも周囲的に鳴っている謎の音。
「カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…」
俺鼻歌歌って上機嫌だったがだんだん怖くなってきて冷静さを取り戻してくる。

そういえば…おかしい。姉貴にしては黒い部分が多すぎる。
姉貴は黒髪だが長さは肩にかかるかかからないかのショートヘアー。
それに姉貴のパジャマが黒だとしてもそんなパジャマ今まで俺は見た事がない。
背筋に悪寒が走り自分でも恐怖が募っていくのがよくわかる。
だが自分でもびっくりしたがそれと同時に好奇心が湧いてきている事もわかった。
今まで霊は信じていたが霊経験のなかった俺としてはこの目で霊の存在を再確認したかったのだろう。
俺が黒い物体を気付いてから30分は過ぎていた。
夜明けにはまだまだ時間があるしこのままでは拉致があかない。
俺は意を決して覗いてみる事にした。
そんな中でも相変わらず周期的に謎の音は鳴り続けている。
「カチ…カチ…カチ…カチ…」
俺はなるべく音が漏れないようにこっそりと湯舟を出る。
黒いボンヤリとした物体をマジマジと眺める。間違いない。これは姉貴でない事は確かだ。それだけは断言できる。

続く