[霊を呼び出す法]

小学4年の頃の話。

その頃、ありがちだけどクラスで「こっくりさん」とか「エンジェルさん」とか、
そういうオカルトっぽいものが流行っていた。ちょうど『学校であった怖い話』系の
本がたくさん出版されてた頃だったと思う。いつもは学校が終わるとほんの少し校庭で
遊んで帰るんだけど、その日はたまたま教室に残っていた。教室には俺と親友A、B、
女の子はCさんとDさんがいた。俺が通ってた小学校は“出る”ことで有名で、
二階廊下、音楽室、保健室、一階トイレ、外のトイレ、講堂、倉庫と話が豊富だった。
俺達が今日あったテストをネタに話していると、Dさんが「ええー!」と
大きな声をあげた。俺達が注目すると、Dさんが「Cが図書室で借りてきた本に、
霊を呼び出す方法ってのがあるんだけど、やってみようって言うんだよー」と
笑いながら言った。「こっくりさん」とかはやったことがあったけど、それは初耳だし
面白そうだったから俺達も「やる!」と答えた。ただ、面白そうだと思った。

その方法というのは、決まった時間(丁度もうすぐだった)に鏡に水をかけ、
その場にいる皆で手を繋いで念じる、とかそんなものだった。
各教室の後ろ側にはA4サイズくらいの鏡が備え付けられていたし、丁度よかった。
鏡を囲んで、A、B、俺、Cさん、Dさんというふうに並んだ。怖いなんて気持ちは
全然なかった(俺はCさんと手を繋いでることに有頂天気味だったしw)。
「何か起こったら面白い」そんなふうに考えてた。たぶん、皆そうだった。
「じゃ、いくぞ」Aが花瓶に汲んできた水を鏡にかけた。皆が軽く俯いて目を閉じる
のが感じられた。俺は目を閉じる前になんとなく鏡を見た。
鏡を水の膜が滑っていくとき、鏡に白い靄がかかっていたように見えた。
俺達の姿が、鏡に映ってなかったようにも・・・。目を閉じるまでなんて一瞬のことだし、
俺の気のせいだったかもしれない。Bが「別に何ともないな」と言ったので、全員が
目を開けて鏡に注目した。鏡からはもう完全に水がはけていたし、それよりも床に
水が滴り落ちていることのほうが大事だった。一応雑巾を配備しておいたものの、
予想以上に濡れてしまったので、慌てて乾いている雑巾で拭いて、全員帰った。

異変はあった。俺は学校にいるとき、視界の端に赤いものを見るようになった。
授業中、ノートに視線を落としていたとき机の横に赤いスカートが見え、
驚いて横を見たが何もいなかったり、廊下の一番奥から女の子が顔だけ出して
いたり、下駄箱から靴を取るときに赤い靴を履いた白い足が見えたり・・・
もう気のせいだとは思えなかった。あの放課後にやったのは『霊を呼び出す方法』。
本当に呼び出したのなら、帰してないではないか。俺はゾッとした。
ある朝、教室に行くために階段を登っていると、廊下に置いてある古いオルガンの
上に、赤いスカートの女の子が立っていた。その横顔は、講堂裏の梅林をじっと見ていた。
・・・幻だったかもしれない。でも、一瞬、そう見えたのだった。
その日の午後、梅林が焼けた。半焼くらいで済んだのだが。
原因は、教頭が焚き火をしたから。もうすぐ冬だったから空気も乾燥していたし、
梅林は枯れた草で一面覆われていたから、そこで火をつければ一気に燃えること
なんて子供でもわかることだった。しかも教頭はとても真面目で頭が固い人だったし
そんなミスをするとは思えなかった。顔に軽い火傷をおった教頭は意気消沈していて
すっかり人が変わっていた。そして、教頭はさっさと何処かへ飛ばされてしまった。

続く