[超能力(師匠シリーズ)]
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「こちらを箱A、こっちを箱Bとする」
同じような箱に、マジックでそう書いてある。
なにが始まるのかドキドキした。
「Aの箱には千円、Bの箱には1万円が入っている。この箱
 を君にあげよう」
ただし、と師匠は続けた。
「お金を入れたのは実は予知能力者で、君がABどちらか片
 方を選ぶと予知していたら、正しく千円と1万円を入れて
 いる。しかしもし、君が両方の箱を選ぶような欲張りだと
 予知していたら、Bの箱の1万円は入れていない」
さあ、どう選ぶ?
そう言って、選択肢をあげた。
「@箱Aのみ
 A箱Bのみ
 B箱AB両方
 おっとそれから、
 Cどちらも選ばない」

どういうゲームかよく分からないが、頭を整理する。
ようするにBだけを選んだらちゃんと1万円入ってるんだから、
Aの「箱Bのみ」が一番儲かるんじゃないだろうか。
師匠は嫌らしい顔で、「ほんとにそれでいいのぉ?」
と言った。

ちょっと待て、冷静に考えろ。
「その予知能力者は、本物という設定なんですか」
肝心なところだ。
しかし師匠は「質問は不可」というだけだった。
目の前を箱を見ていると、そこにあるんだから、いくら入って
ようが両方もらっといたらいいじゃん? と俺の中の悪魔がさ
さやく。
待って待って、予知能力が本物なら両方選べばBはカラ。Aの
千円しか手に入らないぞ? 
と俺の中の天使がささやく。
予知能力が偽者ならどうよ? そう予知して、Bにお金を入れ
なかったのに、実際はBだけを選んでしまったら、もうけは0円
だぞ。
と悪魔。

そうだ。だいたい予知能力というのがあやふやだ。
目の前にあるのに、その箱の中身がまだ定まっていないという
のが、実感がわかない。
お金を入れる、という行為はすでに終わった過去なのだから、
今から俺がどうしようが箱の中身を変えることは出来ない、と
いう気もする。
じゃあ、Bの箱AB両方というのが最善の選択なんだろうか。

続く