[はねたもの]
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そこにあったのは血だった
しかい量は半端が無く
犬や猫 兎や狐の類ではないであろう程の多量さ
真っ赤ではなくドス黒く まるでアメーバのようにドロッとしていた
そしてそれの主である亡骸は付近には見受けられない
一体どこに ・・・

客と車掌は残りの乗客に事情を話した
熊でもひいたのでは?
この辺りには狐と兎しかいない
それではなにをひいたのですか?
もしかしたら 人間かもしれないんだ
車掌の口からこの言葉が出た時点で客全員の顔は青ざめていた

乗客と車掌は手分けしてそのはねた人間であろう 亡骸を探し始めた
あ あ あったぞおおおお
中年男性の悲鳴に近い声が鳴り響いた
車掌及び乗客は囲むようにして集まった

そこには人間の腰から下があった
ジーパンを穿いていて大方男であろう
車掌乗客はふるえながらも慌てながら上半身の捜索を続けた

自責の念に押された車掌は 少し奥の林の方へと進んでいった
車掌はうしろからなにかの視線を感じた
うしろむくとそこには男性がいた
しかしおかしい その男性は子供の背丈よりも低い身の丈であった

車掌はかたまっていた
その男性には下半身がなかったのだ 上半身だけ 腕で立つようにしていた
あの いま列車とぶつかってしまったようなのです それから痛みは感じないのですが どうも調子がおかしい
上半身だけの男性は普通に口を利いた

車掌はかちこちの石のようだったがとたんに狂った猿のようになった
林の奥へ 奥へ 奥へ 全速力で逃げた
車掌が後ろ向くと
まってくださいよ〜 なんでぼくの下半身がないのですか?ねぇ?
上半身の男が腕だけで車掌の足に追いつく程の速さで駆けてきた
うわぁぁぁぁ
車掌は走るのをやめ すぐ近くの樹に登った
するとその上半身も樹の枝をぐっとつかみながら登ってきた
うわぁぁぁぁ うわぁぁぁぁ

車掌はそのままショックで死んでしまった
その男性も 樹にぶら下がったまま出血多量で死んだ

液体も瞬時に凍る氷点下の世界
血が凍り 即死を免れたが それが招いた悲しい事件であった


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