[流れる血]

数年前、俺が住んでいた団地は自殺の名所になっていた。 500m先には同じくらいの高さの団地もあるのだが、
そこの住民までわざわざ飛び降りに来るくらいだった。
子供の頃からずっとそこに住んでいた俺は、飛び降り死体なんて何人も見ていたし、「また自殺があった」と聞けば
死体を見に走っていくこともよくあった。 血溜りの中に浮かぶ脳ミソが意外なほど白かったのを今でも覚えている。
今思えば嫌な子供時代だ。
 一時期に比べれば飛び降りも少なくなっていた高校時代に、俺は遂に決定的瞬間に立ち会う事になった。
出掛けようと団地の玄関から外に出て少し歩いた時、ふいに背後で「ゴッ」と何がブロックでも倒れたような音がした。
何だろうと振り返った俺が見たものは、人間だった。

 最初ソレを見たとき、俺はただ単に貧血か何かで人が倒れているだけだと思った。−俺がいままで見てきた死体は皆
頭が割れていたり、下半身が変な風に曲がっていたり、何か決定的に「死」を連想させる姿をしていたからだ−
しかし近づいてよく見ているとソレはもう死んでいた。
恐らく屋上からでは無く、4〜5階程度の低い所から落ちたのだろう。 死体は割と綺麗だった。 ただ頭と耳から血
を流していた。
しばらく眺めてから、俺は近くの派出所に向かった。
そしてその死体はすぐに警官たちによって青いシートをかけられ隠された。

 その日の夜、俺は金縛りにあった。
続く