[流れる血]

金縛りには "霊的なもの" と "そうじゃないもの" の2種類ある。
後者は体の疲れ等からくるもので、頭は覚醒しているのだが体が覚醒していない為に動けない、とかそんなだったと思
う。 その金縛りならそれまで何度もあった。 だが、その日だけは様子が違った。
夜中に目が覚めた俺は体が動かない事に気付いたが、どうせいつもの金縛りだろうと思った。 しかし何かが違う。
何かおかしな空気というか雰囲気というか、とにかく違和感を感じた。 そしてだんだんと意識がハッキリしてくると、
背後に誰かが立っているのに気が付いた。 いや見えないから "感じた" というのが正しいか。
俺はいつも仰向けでは無く横向きに、猫のように丸まって寝ているのだが、その背後に誰かが居るのである。
俺の背後は開けっ放しの扉になっていて、その向こうの部屋はリビングになっている。 両親の部屋からトイレに行こ
うと思ったら必ず通る部屋なので、最初はトイレに行ったついでに親父がこっちを見ているのかと思った。
だがそれにしてはおかしい。 もう何分もその誰かは俺の背後に居て、俺を見続けている。 近付いてくるでもなく、
話しかけてくるでもなく、ただじっとコッチを睨んでいる。 "殺気" というのはあーいうのを言うのかな。
そんな状態がどれだけ続いただろうか……俺は意識を失っていた。

 朝。 目が覚めた俺は昨夜の事を振り返り、そして自分の体に何も異常が無い事に安堵し、顔を洗ってサッパリしよう
と洗面所に向かった。
冷たい水で顔を洗ってたらある事に気が付いた。 排水口に流れていく水の色が若干赤い事に。 怖かった。
俺はよく鼻血を出していたので、顔を洗っている時に鼻を刺激して鼻血が出たんだろうと思った。 思い込もうとした。
でも、怖くて顔を上げることができない。 顔をあげて鏡を見るのが怖かった。 だから俺は顔を上げず、タオルで乱暴
に顔を拭って洗面所を出た。 急いで洗面所を出て母親とぶつかりそうになり、その母の俺を見る目で、何となく自分の
状況を理解した。
洗面所に戻り鏡を見た俺は、頭と耳から血が垂れていた。


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