[血雪]
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家に帰ると、母ちゃんが台所で朝飯のし支度をしていた。体の芯まで冷えたおれは、
すぐ炬燵にもぐりこみ、そのままの姿勢で先ほどまでの経過を母ちゃんに話した。
母ちゃんは「気味がわるいねえ」とか言いながら味噌汁つくっていたが、ふと、台所の
窓から外を見ながら、「あれ、その女の人じゃないかね」とおれを呼んだ。

おれは台所の窓に飛んでいったが、窓からみえるのは降りしきる雪ばかりだった。
「私の見まちがいかねえ」とボヤく母ちゃんを尻目に、おれは再び炬燵に戻ろうとしたが、
そのとき炬燵が置いてある古い六畳間の窓の外から、ガラスに顔をちかづけて、こっちを
見ている女と視線がばったり会ってしまった。女は細面の青白い顔で髪が長く、そして口のまわりと首のまわりにベッタリ血がついていた。

おれは体が凍りつき、頭のなかが一瞬まっ白になったが、気がついたときには女の顔は消えていた。あわてて窓をあけて表を見たが、
女の姿も、足跡もなかった。

おれは迷った挙句、駐在所に電話をいれる事にした。親子そろって頭がおかしく
なったんじゃないかと言われそうでためらったのだけど、おれが見たのが幻や幽霊であったとしても、見たことは事実なのだ。

受話器のむこうで何度か呼出し音がしたあと、聞きなれた声の警官が出た。

おれが自分の名を告げると、警官は開口一番、「なんだ、また出たってのか?」と
言ったので、おれは気おくれして、親父はまだそこにいるんですか、とだけ聞いた。
親父はもう30分くらい前に駐在所を出た、との事だった。

続く