[7−13]
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俺は、まわれ右、をした。なんにも言わずに店を出ようとした。
そうしたら禿げカーネルが俺の腕をガッとつかまえ 
て、俺の耳元で猫なで声でささやいた。 
「お客さん、何も買わずに帰るんですか〜?」 
厚化粧おばさんがレジから走り出してきて、店の外のシャッターをぜんぶ降ろしてしまった。
閉じ込められた俺に、おっさんが言う。
「わたしら借金がた〜くさんありましてね」 
おばさんも半ベソかいて言う。 
「売り上げあがらなかったら死ね!って本部の人が言うん 
ですよ〜」 
禿げカーネルおやじが俺の腕をガッチリおさえたまま、 
「で、死んだら許してくれるって思ったんですけどね」 
30娘が続ける。 
「でもさあ、死んでも許してくれなかったよね〜」 
俺は何がなんだか解らなくなってきた。店内の蛍光灯が 
妙にチカチカ明滅しはじめた。カーネルが言う。 
「そう、死んでも許してもらえなかったんですよ」 
カーネルの顔が、ズルりと崩れた。 
「死んでも、まだ本部の人が言うの。借金返済しろ〜! 
って・・」 
そう言って厚化粧おばさんは、俺の腰にしがみついた。 
その指はパンパンに膨れてドス黒く、俺を見上げた顔は 
同様に紫色に変色して腫れあがっている。腐臭が鼻をついた。 
眼と鼻と口から大量のウジ虫を湧かせた30娘が、Tシャツの胸をまくり上げて、緑色や紫色に変色したオッパイを見せながら「買って〜」と俺の方に歩いてくる。
「うわわわぁぁぁ!」 
俺はそいつらを振り払ってドアに走り、シャッターを持ち上 
げて外に飛び出した。成仏してくれ、同情するよ。もう、誰もおまえらを追い詰めたりしないよ。
ふり返ると、外まで出られないのか、ゾンビ・サンダース一家がシャッターの向こうから、俺を必死の形相で手招きしている。
店の看板を見上げると「7-13、やな気分!」のポスター。 
クソみたいなイカサマ・チェーンストアだ。 
夜空を見上げると、冬の星々がきれいだった。