[夢の鍵を求めて]
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なんだか方向性が怪しくなってきた。
「その次の朝、目が覚めてからポケットを探っても、もちろん鍵
 なんか入ってない。そこで思った。
 『夢の中で拾ってしまうんじゃなかった』」
やっぱこぇぇよこの人。
「それから、その鍵が僕の夢の中から出てきてくれない。いつも
 夢のポケットの中に入ってる。夢の中で、鍵を机の引き出しに
 しまっておいて、目が覚めてから机の引き出しを開けてみたこ
 ともあるんだけど、やっぱり入ってない。どうしようもなくて、
 ちょっと困ってる」
信じられない話をしている。
落とした鍵を夢の中で拾ってしまったから、現実から鍵が消滅して
夢の中にしか存在しなくなったというのか。
そして夢の中から現実へ鍵を戻す方法を、模索してると言うのだ。

どう考えても、キチ○ガイっぽい話だが、師匠が言うとあながち
そう思えないから怖い。
「あー! また失敗」
と言って師匠は箱を床に置いた。
いい感じだった音がもとに戻ったらしい。
「ボタンのパズルを解いても、鍵がないと開かないんでしょ」
と突っ込むと、師匠は気味悪く笑った。
「ところが、わざわざ今日呼んだのは、開ける気満々だからだよ」
なにやら悪寒がして、俺は少し後ずさった。
「どうしても鍵が夢から出てこないなら、思ったんだよ。
 夢の中でコレ、開けちまえって」
なに?
なに?
なにを言ってるのこの人。
「でさ、あとはパズルさえ解ければ開くわけよ」
ちょっと、ちょっと待って。
青ざめる俺をよそに、師匠はジーパンのポケットを探り始めた。
そして・・・
「この、鍵があれば」
その手には錆ついた灰色の鍵が握られていた。

その瞬間、硬質な金属が砕けるような物凄い音がした。
床抜け、世界が暗転して、ワケがわからなくなった。


誰かに肩を揺すられて、光が戻った。
師匠だった。
「冗談、冗談」
俺はまだ頭がボーッとしていた。
師匠の手にはまだ鍵が握られている。
「今ので気を失うなんて・・・」
と、俺の脇を抱えて起こし、
「さすがだ」
と言った。
やたら嬉しそうだ。
「さっきの鍵の意味が一瞬でわかったんだから、凄いよ。
 もっと暗示に掛かりやすい人なら、僕の目の前で消滅
 してくれたかも知れない」
・・・
俺はなにも言えなかった。
鍵を夢で拾った云々はウソだったらしい。
その日は俺をからかっただけで、結局師匠は箱のパズルを
解けなかった。
その箱がどうなったか、その後は知らない。


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