[屍伯爵]
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ワシが蛇をついばむのを俺と異は固唾を飲んで見守った。
よく餌付けされているようだ。俺は何か芝居を見せられている
ような気になってきた。
きっとそうに違いない。伯爵は
忍び込んできたいたずら小僧たちをビビらせようとしてこんな
手の込んだ奇行をして見せているのだ。そう思い当たると俺は
何だか安心した。そうだ。当たり前じゃないか。現実に危険などない。
俺は異の方をむいて微かに笑いかけた。安心させるためだ。
しかし、何か忘れているような…。やがて伯爵は半分ほどになった
蛇をぽいと捨て、ワシをまた段ボールに戻し、はがした
ガムテープを貼り直した。伯爵はまたニヤリと笑いかけて言った。
「もうじき、終わる」
伯爵はまた段ボールを下ろし始めた。窓が徐々に姿を現して行く。
やがて目当ての段ボールが見付かり伯爵はガムテープをはがしていく。
中から取り出されたものは――。
ラップがかかった皿だった。中身は良く分からない。伯爵は笑みを
浮かべながらそれをこっちに持ってきた。籠をどけてテーブルに
乗せる。俺は皿を凝視した。ラップに包まれているのは唐揚げの
ように見えた。
「食べて、いいんだよ」
伯爵は俺と異を交互に見てニタリと笑った。黄ばんだ歯が覗いた。
俺と異は顔を見合わせた。壁に詰まれた段ボールから出てきた
ものなど食べたくない。俺は断りの言葉を言おうと伯爵の方に
向き直った。そして――大声を上げて逃げ出した。異のことも忘れてドアを飛び出し階段を駆け上がった。
玄関ホールを走り抜け
必死に外へと走った。雑草を踏み倒し門扉にぶつかりながら道へと
脱出した。まだ止まれない。家へと走った。着いた時は死ぬかと
思った。
俺は見てしまった。断ろうと伯爵を振り返った時、伯爵の後ろ
段ボールの中から現れた窓が、ゆっくりと開き始め、外から黒い
毛むくじゃらの何か大きなものが中へ入ってこようとしているのを。
あの地下室は俺たちの籠だったのだ…。後になって思い返してみると逃げ出した時
亜の姿は見なかった。そして異の行方は――杳として知れない。