[アンティーク着物]
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ええええ!?と思った瞬間、和室の方から

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!

と、摩擦音のような音がした。さらに緊張する祖母と母。
「手伝ってきてくれ、おまんは力あるから!!
 うちは○○(←聞き取れなかった)持ってくる!!」
内心チビリそうになりながら、そっと戸に手をかける俺に、
祖母が握らせたのは「出刃包丁」

覚悟を決めて一気に引き戸を開けると、目の前には父と祖父が
身構えて立っていた。
部屋の真ん中には、手と足の生えた、緑色の布の塊。
それが部屋の真ん中でぐるぐる回っている。
多分、あれは姉だ。
しかし、見えている手がおかしい。二対ある。

手が震えて、何も出来なさそうな俺をみて、祖父が父に言った。
「ええか、先におまんが押さえ。俺が着物剥ぐ」
「ん。いくで」
回っているものに飛び掛る父。しかし相当強いらしく、引きずられてしまう。

出てる手に引っ掻かれまくる父を見て、はっとわれに返って
俺も飛び掛り、何とか動きを鈍らせる。
祖父がそのスキにそいつの着物を引っぺがした。
やはり中味は姉だった。
しかし、着物をはがしても治まる様子が見えず、
父に噛み付き、犬のように首を打ち振る姉。父の血が当たりに飛び散る。
もう手が痺れてきて、「あ、だめだ」と思った瞬間、
ガラガラガラッと大きな音を立てて戸を開け、祖母が突進!
薄茶色い液体を着物にぶっ掛けた。
やっと父から口を離した姉を、母が布団でくるみ、上から縄で縛り、
納戸の中に押し込んで鍵をかけた。

その翌日、庭で着物を燃やした。満身創痍の父と、俺と、祖父の三人は、
その灰をたっぷりかけられた。
姉は、克明に出来事を覚えているらしいが、どうしても話してくれなかった。
母と祖母の持ち出した液体も、灰をかけられたことも、
あの着物のことも、未だに俺には分からないままだ。


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