[怪現象の元凶]
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テープは、この部屋を撮ったものだった。そこには、一家三人。
きゃっきゃとハシャグ2歳くらいの赤子。優しそうな男性(父親)
と美人だが陰鬱な顔の女性(母親)が写っていた。映像が切り替わる。
うるさかった部屋には、今度は誰も写っていない。画面の左り端
には、黒い影が映っている。撮影者の指のようだ。ただ、何だか
ゴトゴトと音がしている。しばらくじぃっと画面を見つめていた。
まわりは、すっかり夕暮れになっていた。「イヤァ!!」急に、
かぼそい悲鳴が響いた。一緒に見ていた奥さんだ。目を閉じて、
すっかり脅えながら、画面を指差して言った。「せ、せ、洗濯機の
なか。。。」おれは息をとめた。ゴトゴトいう音は洗濯機だ。そして、
よく見ると、何か見え隠れしてる。小さな赤く染まった手だった。

内部に入ってる物は容易に想像できた。あの子だ。楽しそうに遊
ぶ姿が印象的だった、あの赤子だ。誰もが固唾を呑んで見ている
と、急に画像が乱れた。ざぁーと、波が入った。しばらくすると、
うつろな部屋が再び写された。皆、動けない。話せない。おれは、
背筋が凍りついた。洗濯機から赤い血糊が部屋の中へ、べったりと
いっぽんの帯となって続いている。そしてその先には、ズ・ズズ
ッと這うようにうごめく赤い塊があった。ぐちゃぐちゃで、顔も
手も、足も分からない。だが、一つ、異様に目に付くものがあった。

大きく、異様に歪んだ口だった。口の中には、ぎょろりと、こちらを
じっと睨む瞳。血の滲んだ目だ。誰も声を出せなかった。沈黙の後、
だまっていた管理人が泣崩れた。「こんなことが。」赤い塊は「・・
ね」とつぶやき、洗濯機の中へと這い戻った。次の瞬間、画像が
上下した。床に落ちたのだ。続いて、画面に飛び込んだのは、意
識を失って倒れた撮影者だった。陰鬱な顔をした美しい女性。た
だ、美しさはもはや損なわれてしまった。真っ赤に染まったうつ
ろな顔。その鮮血は、崩れた左の眼孔から絶え間なく流れでていた。
おれは、その夜、部屋を出た。ホテルにつくと喩え様のない悲しみ
がこみ上げた。翌朝○天宮様へいった。彼らの冥福を祈るために。

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