[怪現象の元凶]
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「またかぁ。」扉を拭きながら、管理人が、ひとりごちた。「いま
さらで悪いんですけどね。」ばつが悪そうに管理人が続ける。「前
にも、何度か同じようなことがあったんですよ。ここは元々、建
売のマンションだったんですけどね、なぜかこの部屋だけは、持
主の意向で賃貸にしたんですよ。日当たりも悪いんですけど、こ
の部屋は、異様に暗くて、買手がつかなかった。持主は、設計上
瑕疵があるに違いないので、とても人様には売れない、この瑕
疵の分、割安価格で、賃貸にしようって言いました。私は管理を
担うだけだから、従いました。」管理人は言葉をとめた。平静を
保つためか、タバコをすった。しばらくすると管理人は「私を
責めないでくださいね。」ポツリと呟いた。「最初の住人。。責
任は彼らにあるんですから。」そこで、管理人は口を閉ざした。

自分の部屋が怖い。この事実に、俺は耐えられなかったが、自
分の荷物が全部この部屋にあることがそれ以上に恐ろしかった。
「勝手で申し訳ないですが、引っ越してください。」管理人が
手を床につき言葉を繋げた。「引越しに必要な費用は、こちら
に負担させてください。」俺は本当に救われた。昨晩のことで
破けてしまった心が、再びつながった気がした。すぐに、不動
産屋に連絡した。持主にも。両者とも、素直に納得し、解約の
申し出はこの電話のみで良いといってくれた。引越屋の手配も
請負ってくれた。幸い、引越し初晩で、荷物の大半は開いて
はいなかった。片付けはあまりないけれど、俺の精神状態を
酷く心配した夫婦が、手伝ってくれた。片付けも終わり、
いよいよ引越屋を待つだけ、となった時だった。旦那さんが、
余計なものを見つけた。「このビデオテープは君の?」

しーんと静まった部屋で一同はおれを見つめた。テープを手に取
った。頭が真っ白だった。何分たったのだろうか。おれは、うっ
かり、余計なことを言った。「違います。でも、見てみたい。」ごく
り、と、皆が息をのんだ。怖かった。でも、おれは知りたかった。
責任者とはどんな連中か。あれは何だったのか。おれは、自己の責
任において、ビデオを見ることを決めた。管理人も、夫婦も、真相
を知りたい気持ちは同じだった。きっとこのビデオには何か手掛り
となる事実が映っている、と、誰もが直感した。その時、突然、お
れのPHSが鳴った。引越屋だ。あと1時間位で到着するそうだ。
良いタイミングだった。十分な時間が与えられた。

続く