[坊さんの成れの果て]
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「・・・・ど・・・こ・・・・・さと・・・へ・・・・・つ・・・かん」
なにやら、ぼそぼそとささやく声が聞こえてきました。
さっきより、影が近づいているようでした。
僕はもう怖くなって、寝袋にもぐりこみました。
「なんまいだぶ、なんまいだぶ・・・」
必死になって、よく知りもしないお経を必死に唱えていました。

どのくらい経ったでしょうか、
気が付くと外からは何の音も聞こえなくなっていました。
「・・・・・?」
僕は恐る恐る寝袋から顔を出しました。
もう、テントには何も映っておらず、
音も聞こえなくなっていました。
「良かった〜」
僕は安堵で涙が出ました。

寝袋から出るため、
中からチャックを開けようとした時です。
「・・・チリン・・」
鈴が聞こえました。
「・・・!」
手が何かに触れました。
冷たくて、なにかごつごつしたもの・・・・。

僕はよせばいいのに、恐る恐る寝袋の中を覗き込みました。
「-------------------!!!」
そこには、
目は抜け落ちて、眼窩がぽっかりと空いた、
骸骨に皮を貼り付けたような、
土色の肌をした坊主がいました。
顔の皮膚のそこら中、
風化したかのように黒ずんで、
穴が開いて中が見えていました。

「あうあうあうあうあ・・・・・」
僕は恐怖で声も出ませんでした。
坊主は、唇の欠けた口で
ニイィと笑いました。

「ここ・・・は・・さむ・・い・・・お・・・まえ・・・も・・・・おい・・・で」
坊主はそう言うと、
僕の頭をがしっとつかみました。
「わああ!」
そのまま、僕は寝袋の中に引きずり込まれそうになりました。
なぜか、寝袋のくせに底なしになったかのようで、
そのままどこかへ連れていかれてしまいそうでした。

その時です。
「ぬしゃあ!!うちのAになにしよる!!」
隣から爺ちゃんのものすごい怒鳴り声が聞こえました。
同時に、体が一気に楽になり、
僕はそのまま気を失ってしまいました。

次の日、目が覚めると、
爺ちゃんはすでに起きていて、
朝のスープを作っているところでした。
爺ちゃんに昨日のことを聞くと、
全く知らないとのこと。
ただ、僕が知らない坊さんに、
無理やり連れていかれそうになっている夢を見たそうな。

僕らは朝飯もそこそこに、
あわてて山を降りました。
帰り道、キャンプ場の管理人さんに、
「坊泊」について聞いてみました。

昔、冬のある日、旅の坊様がこの村を通ったとき、
隣村へ通じる道を村人に尋ねました。
村人は、冗談で山に通じる嘘の道を教えたそうです。
きっとすぐ、だまされたと思って帰ってくると・・・。
しかし、真面目な坊様は、
村人に教えられたとおり、どんどんどんどん、
山奥へと入っていってしまった。
次の日、坊様が帰って来ないことを知った村人は、
村の若い衆と、山の中へ坊様を探しに出かけた。
かなり奥に入って行くと、例の沢に、
凍え死んだ坊様の遺体があったと。
少しでも寒さを凌ごうとしたのか、
首から下は雪に埋もれていたそうです。


あれはその坊様の霊なんでしょうか・・・。


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