[さびた槍]
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「その飢饉ではな、いっぱい人が死んだし、自殺もしたし、とにかく楽になりたかったんだ。
天国に行って、のんびりしたかったんだ。けど、本当はもっと婆ちゃん達みたいに
もっと長生きしたかったんだと思う。だからお前も、ちゃんと食べられる事に感謝して
毎日元気にしてなきゃいけない。嘘もつかずに真面目に生きなきゃダメだぞ。
嘘つきはダメ。女の人も子供も、その飢饉では沢山死んだんだ。」
みたいな事だった。俺は夜釣りで幽霊らしきのを見たってハッキリ言おうと思ってさ
「海の上に人立ってた」
って言ったんだよね。二人はこの前みたいにテンパらずに「やっぱりな…」って言った。
俺は怖くなっちゃってガクガク震えちゃったんだけど、婆ちゃんが
「大丈夫大丈夫、婆ちゃんついてるから…」って言ってくれた。
けど、婆ちゃんは実際、かなり不安そうな顔をしてた。爺ちゃんはお寺に行ってくるって言って
出かけていったんだ。
で、坊さんが来たのはその話を聞いた次の日だったと思う。いや、思い出した。次の日だったわ。
初めて俺はその時に襖付近へ行く事を許されたんだけど、荷物群を全部取っ払って
何か棚の準備をしたのを手伝わされてさ、ちょっとしたお寺の拝む棚みたいなのを作るのを
手伝わされた。坊さんはあちこちをブツブツ何か言いながら歩いてね、その棚の前に行くと
お経を上げ始めて、俺は出て行くように言われた。襖はたしかにほんの10cmくらい開いてた。
1時間後くらいだったと思う。坊さんが部屋から出てきて、その間に親戚がみんな集まってて、
近所の人も来ていてね。何かみんなで拝んでまた剣舞見てその日が終わった。
坊さんがさ、俺に言ってきたんだけど
「たぶん、今日はちょっとだけビックリする事が起きるかもしれない。
けど、大丈夫だから。たとえそれが起きたとしてもそのままそこにいなさい。
もう大丈夫だから何が起きてもその場を離れちゃダメだよ」
って言われたの。俺は素直にハイって答えました。夜釣りも行く気になれなかった。
その後に坊さんはオサーンや爺ちゃんに話してた。オサーンが坊さんに
「大丈夫なんでしょうか。アイツは大丈夫なんでしょうか。心配です」
みたいな事を言っていたんだけど、坊さんは「大丈夫、その場を離れなければ」って言ってた。
案の定、爺ちゃんやオサーンに俺は念押しされて、坊さんからの言付けを必ず守るようにって
言われた。その後は普通に飯食って、楽しく花火をして、夏を満喫したんだよ。
まぁ怖かったから無理やり花火やって、楽しもうとしてたんだけどね。忘れたかった。
花火も終わり、お風呂も入ったし寝る事にしました。またオサーンに「早く寝ろは…」って言われたし。
で、寝ようとしたんだけど坊さんの言った事が気になってなかなか眠れなかったんだよね。
俺が寝ている部屋はちょうど物置部屋の斜め隣なんだけどさ。何でいつもは気にせず寝てるのに
流石にこの時ばかりはこの位置が気になって眠れないの。そしたら急にコココココ…って何かを
小刻みに何かに当たってる物置部屋のほうからから音がしだして壁のほうから聞こえてくるん
だよね、人間の声がボソボソって。それはどんどん増えて言ってあちこちから聞こえきだすの。
もう今でもちゃんと覚えてる。
「腹…腹…」
「やんた…やんた…生きて…生きてぇ…」
「腹…は…」
「死にたぐね…やんた…」
「腹…腹…」
「やんた…やんた…やんた…」
「お寺さ…やんた…」
「水っこはやんた…も…」
「腹…水っこは…」
「取ってけっつぇ…死にたぐね…生きてぇ…」
って声があちこちから聞こえてくるの。もう怖くて怖くて仕方なかった。発狂しそうだった。
けど坊さんの言付けを守らなきゃって頑張って自分に言い聞かせて、震えながら寝れずに
じっとしてた。声はやまなくてどんどん増えていったんよ。
そしたら俺の寝ている部屋でも何かがコココココ…て聞こえ出してさ、さすがにそれには閉じていた
眼を開けちゃって、その音の方向を見ちゃったんだよね。
そこにはさ、般若の刺繍(?)っていうか、そういった布で出来た飾りみたいなのが額縁に入れられて
あるんだけどそれが揺れてるんだよね。しかも、その般若の刺繍の眼のとこが動いてるの。
さすがに口を閉じたり閉めたりまではしてなかったとは思うんだけど、般若の刺繍のとこらへんからも
同じ言葉が出てきてるんだよね。「腹…腹…」、「やんた…水っこは…」って。
たぶん、それ見て気絶してました。気づいたら朝だったし。
ちゃんとそれを爺ちゃんと坊さんに言って、お寺でまたお経をあげてもらいました。
坊さんは褒めてくれた。爺ちゃんも褒めてくれた。よく頑張ったなって。
何か長くなってしまい、イライラさせてしまいましたが、こんな感じです。
俺が確かに体験して、今でもその話を帰省すると坊さんや爺ちゃんとします。
で、ちゃんと拝んで過ごしています。取り合えず、ここで終わりますが、
何か聞きたいことあったらどうぞよろしくです。
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