[さびた槍]

俺の実家、岩手県のとある地方なんだけどさ、毎年帰省するんだけどね。
よく田舎って「本家」みたいなのがあるのは分かるかな?
その一族の本家っていうかさ、要は親戚縁者を統括する家みたいなの。
血筋の出所って言えば適切かな。まぁそういうのがあるんだわ。
その本家はね、三百年くらい歴史があるその土地の権力血筋だったんだ。
あまり詳しくは書けないけど、立派な造りなんだよ。ボロっちいけどね。
その本家で俺がまだ当時小学生だった時、夏だったかな、大人達が
囲炉裏のあったっていう(今はない)部屋で、何かゴソゴソ話してるの。
もちろん俺といとこは気になっちゃって、こっそり盗み聞きしようとしたんだ。
大人達っていうのは親戚のオサーンとか、俺のじいちゃんとか、そこら辺の親戚の
人間ね。田舎はコミューンが小さいから、結構血が繋がってるんだ。人口少ないし。

「…どうすん…部屋…」
「空いて…近づくしかね…閉め…」

みたいなこと話してたんだ。あまりよく聞こえなかったんだけどさ。
まぁ盗み聞きはソッコーでバレたんだが、親戚のオサーンが

「おめら、何もきぃてねぇべな!!きぃてねぇべな!!」

って凄い剣幕で俺らに言ってきたんだ。いつもは超優しいオサーンだったもんだから
その形相に俺らはビックリしちゃって、何も聞いてないって言ったの。そしたら
オサーンはいつもの優しいオサーンに戻って

「そうか…」

って肩をなでおろしていたのを今でもハッキリ覚えてる。

時期はお盆でした。風習も面白いところなんだが、俺らガキは大人達から
「お盆の海では絶対にお酔いじゃダメだぞ」
みたいな事をいつも言われてた。まぁシカトして泳いでたし、そういった
霊体験みたいのは何もなかったから全然平気だったんだけどさ、
まぁよく言う海で泳ぐのは危険だから、お盆特有の霊現象みたいなので
子供を海へ近づかせない常套句だったんだろね。これは全国各地である話だよね。

話がちょっと脱線したけど、いつもの夏通りに海へ出かけて釣りしてたの。
釣りへ出かけて楽しんでるとさ、釣りへいつも連れて行ってくれてる親戚のオサーンが
元気ないんだわ。さすがにガキながら心配になり「どうしたの?」みたいな
感じの事を言ったんだ。そしたら、オサーンは「どうもしねから、どうもしねから」
って上の空みたいな返事しかしない。この時点で今ならかなり怪しいと思えたんだが、
なにぶん、当時は小学生のガキだったもんでそこまで気にせず釣りを楽しんでたんだよね。

俺らは釣りにすごくハマってて、夜釣りもしてたんだけど、いつも通り、オサーンに
夜釣りに連れて行ってくれって俺らは夕方くらいに頼んだの。
オサーンは何故かかなり拒否して、今日はやめとくべって言ってきたんだ。
いつもはね、「あべ、あべ」(←行こう。の方言だよ)って自分から言ってくる人なんだけど
何故かかたくなに拒否されたんだ。もうこの時は確か盆の入り直後だった思う。
不思議だなと思ったんだけど、俺らはコッソリ夜釣りに黙って出かけちゃったんだよね。

夜釣りを楽しんでるとさ、いとこの一人が俺に言ってきたんだ。
「A(←俺)、何かあっちさ人たってねは?」
あっちって方向を指差したのは海のど真ん中。コの字型の岸壁のど真ん中で
確かに人らしきのが海の上に立ってるの。最初は舟の上で漁師のオサーンが
何かしてるんだろうなって思ったけど、そんな気配はない。つーか、舟がない。
きっと幽霊だと思ってなんか俺らは怖がらずに、逆にテンションあがって
ワイワイやってたんですよ…。アホだ…。

そしたらオサーンとじいちゃんとかが、俺らが釣りしていた岸壁に
かなり飛ばして、俺らの背後にある漁港までの山道を飛ばしてきたのに気づいてさ
俺ら見つかってオサーンとじいちゃんにかなりその後しぼられたんだ。
車の中で「何か見たか?何か見てねぇべ!?」って言われてさ、
俺らはその幽霊らしきのを見たとは言わず、また事実を隠しちゃったの。
そしたら、また大人達が肩をなでおろしたのがマジで印象的だった。

車の中で本家に帰る途中、ずっと大人達は無言だったんだ。俺らはそれに
不思議がったんだけど、俺は勝手に釣りに出かけたら怒ってるんだろうなって
思ってた。家に着くと大慌てで婆ちゃんが俺らんとこに来て
「何も見なかったべな!!何も見なかったべな!!」
ってオサーンと同じ事を言ったのよ。で、まぁ見てないみたいな事を言ったら
婆ちゃんフラフラ〜って崩れ落ちて泣き出した。悪いことしたなぁって反省したんだが
何がそこまで大人達をさせるのかなって気になったんだよね。すぐ後に婆ちゃんが
「くわっせ、うまかっつぉ」
って言ってくれて夕顔の煮たのを出してくれた。郷土料理だよ、美味しいよ。
いつもの婆ちゃんに戻ってたね。さっきのテンパってた婆ちゃんじゃなくて。
だからなおさら気になったんだよね。

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