[嫌な感じのマンション:

大学の頃のボクは結構な苦学生で、まあ高い授業料の私学に通っていたから
しょうがないんだけれど、色々とアルバイトをしました。
「引越し屋さん」もそのひとつ。体の線は細かったけれど筋力と体力には自信があったので
高額な報酬もあってちょくちょくバイトに行ってました。

東京のH市の郊外にある「A」と言う名のそこは、はじめに行ってみたら
出来たばかりの若い会社でボクはオープニングスタッフでした。

出来たばかりの会社というのは無理をしないとイケない。
だから他の会社がやりたがらない仕事が多かったみたいです。
(そういえばバイト仲間には今をときめくPRIDEの大スター S君もいましたw)

他の会社がやりたがらない仕事・・・・・・
エレベーターのない団地での5階からの荷降ろし&荷あげ。
車の通れない細い路地裏の引っ越し。夜逃げにヤクザの引っ越し。
書いていたらきりが有りませんがそんなもんです。
あああ・・・・・・・あとは曰くつき。気にしてませんでしたけどね。
そんなの。

その日もボクはいつものように2tのトラックを転がして現場に入りました。
伝票には都内の高級マンションの名前が書いてありました。

「こんちわっす!!!引っ越しセンターの者ですが」

(下請けの仕事が多かったんで、それに合わせて毎日、会社名が変わります。
めんどくさいからいつも上記みたいに挨拶してました)

さあ、作業を始めよう!!んんん・・・・????

なんだ、突然の目眩、吐き気。まわりの景色がぐるぐるまわって、
とても立っていられません・・・・・どうしたんだ?

大丈夫ですかあ・・・?顔色悪いっスよ!!!

心配そうにバイト仲間がこっちを覗きこんでいます。

悪い、ちょっと気分が悪いんだ・・・・オレ、トラックで積み込みやるわ・・・・・

なんとなくですが、そのときボクは、はやくコノ場所を離れなくては・・・・とそれだけを考えていました。

なんだ・・・・どうしたんだ・・・・・ここは・・・・・

逃げるように玄関を出てエレベーターを降り、1Fのエントランスホールの脇にある
花壇に腰掛て外の空気を吸うと・・・いくらか気分は楽になりました。

さっきのは何だったんだろう・・・・・

そのときです。すーっとボクの隣を見覚えのある女のひとが通り過ぎて行きました。
ああっつ・・・あの人は確か・・・・芸能人の・・・・おねいさんがミュージシャンの・・・・
ほら・・・・Tだ!!!このマンションの住人なんだ・・・・・。

Tは、通りすがりに冷たい視線をチラリとこっちに向けてエレベータに消えて行きました。

なんだよ・・・・お高くとまりやがって・・・・
でもマンションの花壇に作業服の男がへたり込んでいるのもかなり怪しいけどな・・・・・

それから作業は滞りなく終わり、僕らは荷物を積んだトラックで引っ越し先まで移動しました。

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