[言霊返り(未完)]

去年の夏の話です。私は現在都内に住んでいるのですが、実家は山形県のT市にあります。
高校を卒業して以来実家には一度も帰省せず、実家からの連絡といえば時折来る父の電話ぐらいでした。
私の生家はいわゆる旧家という奴で、昔風な言い方をすれば庄屋と言うところだと思います。
私の生まれ育った集落は月山、出羽山、湯殿山に囲まれており、昔から霊山といわれるだけあり、
子供の頃からずいぶん神社などにまつわる神的な行事が執り行われていました。
私の父はそういった行事の度に近所のとりまとめ的な物をやっていて、
そういった時の父の顔を見ると子供心に妙な恐怖心を感じていました。そんな中でも特に
「言霊返り」という儀式があり、死者を蘇らせる儀式がありました。
この儀式は集落でも選ばれた物しか参加が出来なくて、
子供であった私にはそれがどんな物であるかは知るよしがなかったのです。
それは5年ごとに行われる儀式でしたので、
高校ぐらいの時にちょうどそれが行われる年があったのですが、
私がいくら参加の意志を伝えても父は首を縦には振らないと言うことがありました。
結局そのまま私は東京の大学に進み、現在の職に就いているのですが、
昨年の夏に急に実家の妹から電話があり、
「兄ちゃん、今年は帰ってこないの?何だか父さんの様子が変なんだよ」
というので、「いったい何がどう変なんだ?」と聞き返したのですが、
妹の話がどうも釈然としない説明なのです。

「今年は言霊返りだよ、何かその準備で父さん仕事もそっちのけなんだよ」 「言霊返り」・・その言葉を聞くのはあの高校の時の夏以来でした。

続く