[言霊返り(未完)]
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特に盆休みに何も予定がなかった私は
その夏に実に5年ぶりに実家に帰省することにしました。
実家についてみるとあの時のまま何も変わらない風景が
私の前に広がり、何だか太古の昔から変わっていないような
気もしました。その瞬間携帯が鳴り、
急に私は現代の生活に苦笑しました。電話は父からで、
社の方で飲み会を近所の集としているから
おまえも来いとのことでした。
妹の話とは裏腹に特段変化のない父の声を聞き、
何だか帰ってきたことに
後悔を感じつつも私は社に向かいました。
社では幾分老けた父と近所の方々がすでに上機嫌で待っており、
「Hちゃん元気か?今年の言霊返りはやっと参加するんだな」
と叔父が私に向かい言うのです。いきなり参加するんだと言われても
何も状況が読めない私は父に「どういう事?」と尋ねるのですが、
父の方はとりつく島もないというか、ただただ「そういうことだ」
と酒をあおるばかりでした。
久しぶりに帰ってきて急に訳のわからないことを言われた私は
少し不機嫌になり、その場を早急に離れ、実家の方に向かいました。
その道すがら墓地の前を通るのですが、久しぶりに墓参りでも
していこうという気になり、家の墓の前に立ち、手を合わせました
。
ふと墓の横に掘ってある、自分の祖父や祖母の名前を見たのですが、
どの戒名も、祖父や祖母に限らずそのもっと前の祖先の全ての戒名に
「鬼」という文字が含まれているのです。私はこの文字にとても
不自然な気がしました。だいたい仏になる人に鬼なんて文字を
使うんだろうか?
「おいHじゃないか」その声に私は先ほどの疑問が消え、
声の方に向きました。声の主は高校の時の同級生のIでした。
Iの家も私の家と同様に行事ごとにとりまとめる家でした。
だいたい子供の頃からこいつとはそりが合わず、
嫌悪すら感じる相手でしたが、久しぶりに見るIは
私よりかなり老け込んで見えました。
おまえもやっと今年参加するんだろ」、
「明日の夜は忙しいぜ、暗夜鬼の盃をうけなやならんしな」
一体こいつは何を話しているんだ?
こんな場所にずっと閉じこもって
年寄りじみちまったんじゃないか?
そんな私を後にしてIは来た道を立ち去っていきました。
「言霊返り」、「暗夜鬼」・・・・
何だけ帰省したこと自体間違いだったなと、
とぼとぼ生家に向かいました。